キッズ・リターンと監督 北野武




ビートたけし主演で企画された『その男、凶暴につき』は監督を務める予定だった深作欣二がスケジュールの関係で降板し、企画は一時中断した。そのまま制作中止も危ぶまれたが、たけしが代わりに演出を担当することに意欲を見せ、予定通り映画は完成し監督北野武が誕生した。

出来上がった映画はそれまでの慣例的な演出や作為的な演技を嫌い、その作風は独特の間と乾いた描写で暴力を際立たせ観客に衝撃を与えた。既成の決まり事にとらわれない新しい映像感覚は映画関係者の高い評価を受け興業的にも成功し、北野武に映画の才ありと世間に認識させることになった。

2作目の『3-4×10月』で映画作家としての方向性を見いだすと、3作目『あの夏、いちばん静かな海。』では演出・演技に加え、セリフまでも極限までに削って究極の映像語りに挑戦するという実験的な作品づくりも試みている。

そして4作目『ソナチネ』で北野武は一つの境地に達する。キタノブルーを基調とし死生観を浮き上がらせるような淡々とした映像と、虚しく刹那的なバイオレンス描写。そしてその先には突然の終わりが訪れ、独特の無常観を漂わせる。

しかしこの作品は高い作家性を評価されるものの、世間的には難解な作品をつくる非商業的な映像作家と認識され、彼の監督作品は客が入らないといわれた。そのせいかどうかは分からないが、北野武はこれ以降精神的に追い込まれるようになっていったようだ。

その状況で製作されたのが後に自ら失敗作と認めるようになる『みんな~やってるか!』だ。笑いの専門家がつくったコメディ映画だが、実は北野武の作家性とコメディ映画の相性は良くなかった。それまで作り上げたものの破壊を目指したこの作品の完成直後、たけしはバイク事故を起こし死の淵をさまようことになる。

たけしは無意識に、自ら破滅へと向かっていったのかもしれない。奇跡的に命を取り留めたものの、これによってお笑い芸人ビートたけしは力を失った。しかし、映画人北野武の使命はまだ終わってはいなかった。

事故から二年後、北野武は復帰作に挑むことになる。若者二人による生き様と挫折を描いた映画『キッズ・リターン』だ。これまでの難解な語りを避け、オーソドックスなドラマ仕立ての作品になっている。

北野武の作家性の高さは認めるが彼の作品の鑑賞には忍耐力が必要で、私にはどうも苦手意識がある。その中で分かり易くつくられているこの映画は素直に感動できて一番好きな作品だ。そして、北野武はやはり映画づくりの上手い監督なのだと感じさせてくれる作品でもある。

映画は高校の落ちこぼれであるマサルとシンジが、授業中に自転車の二人乗りをしながらグラウンドを走り廻るシーンで始まる。毎日を勝手気ままに過ごしていた二人はやがてボクシングに出会い、才能があったシンジは真剣にボクシングに取り組むようになる。一方マサルはボクシングから極道の道に切り替え、その世界の出世を目指すようになった。だが結局二人とも大人の世界の冷酷な現実に直面し、それぞれ挫折を味わって夢を絶たれてしまう。

目標を失ったマサルとシンジはかつてのように自転車を二人乗りして、あてもなくグラウンドを駆け廻る。ラストシーンは自転車を漕いでいたシンジが、後ろに座るマサルと言葉を交わすところで終わる。

「マーちゃん、俺たちもう終わちゃったのかな」

「バカヤロウ、まだ始まっちゃいねえよ」

強がりに聞こえる言葉かもしれない。だが二人は挫折しただけで、これまでの北野映画のように破滅で終わったわけではないのだ。それだけに希望を感じさせる心地の良いラストシーンとなっている。そして同時にこの言葉は北野武の復帰宣言でもあったのだろう。

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