山田ルイ53世著「一発屋芸人列伝」




貴族のお漫才・髭男爵といえば「ルネッサ~ンス」のフレーズで一世風靡した一発屋芸人である。そのツッコミ担当・山田ルイ53世による『一発屋芸人列伝』が面白い。

この本は自ら一発屋である山田ルイ53世が一発屋と呼ばれる芸人たちに取材し、消えたと言われたその後の姿も描く人物列伝である。雑誌の連載時から内容の面白さと文章力の高さで話題になっていた。

この本に書かれている一発屋の定義が面白い。「一発屋は認める者に与えられる、仕事上の肩書きだ」一発屋と呼ばれる芸人が量産され一大ジャンルとなると、そこにしがみつきながら彼らはしたたかに生きてゆく。そんな芸人たちの生き様を一発屋ならではの視点で語っている本だ。

山田ルイ53世の文章の巧みさ、構成の上手さには驚かされる。ただ才気のあまり技巧に走り過ぎているところがあり、純粋に人物列伝を楽しみたい人には邪魔だと感じるかもしれない。それと読みにくい漢字を多用しているのはいただけない部分だ。本当に文章が上手い人は、技巧を感じさせないで自然に読ませるものだ。だが読者を楽しませる確かな腕を持っているのは間違いないだろう。

交流のある芸人たちの事を書いた芸人の本はいくつかあるが、たいてい表面的な記述に終わっていてつまらない。だがこの本はそれらと一線を画した面白さがある。プロならではの芸を見る目は確かで、人物観察眼にも優れた一級の芸人論となっている。

例えば、テレビ出演は少なくても営業で圧倒的な仕事量をこなすテツandトモの、ベタで古くても客を喜ばせる完成された芸は“演歌”と同じクオリティーのものだと看破する。ジョイマンの意味がない言葉を並べて韻を踏む脱力系ラップは、安易で稚拙に見えるが実は言葉のチョイスにおける難易度が高い、という分析も鋭い。

波田陽区が「残念!」と叫びながら吐く毒は、負け犬キャラだからこそ観客に受け入れてもらえるもので、説得力のない彼が人気者になればたちまち失速してしまう、という部分は思わず頷かずにいられなかった。

その他、ダメ芸人の代表であるコウメ太夫の“出来ない”が故に面白くなってしまったというエピソードや、ムーディ勝山と天津・木村の間に起きた“バスジャック”事件も楽しく読める。一発屋でさえないエンタ芸人、ハローケイスケが持つ芸人としての矜持も印象に残るものだ。

この本ではキンタロー。をただ1人の一発屋女芸人として紹介している。それは彼女が女性では唯一、自分を一発屋芸人だと名乗っているからだ。つまり一発屋だと認めない、にしおかすみこやエド・はるみはただの消えた芸人だということだろう。そういったところから、男芸人と女芸人の違いについて考察を重ねているところも興味深い。

列伝に選ばれた芸人たちもバリエーションに富んでいて、最初から最後まで一気に読み終えたくなる質の高い娯楽本だ。お笑い好きにはお勧めの一冊である。

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