黒澤明「隠し砦の三悪人」「天国と地獄」

スポンサーリンク

『隠し砦の三悪人』

NHKプレミアムシネマで8日に放送された『隠し砦の三悪人』は黒澤映画の中でも娯楽性の高い作品で、ジョージ・ルーカス監督『スターウォーズ』に大きなインスピレーションを与えた映画として知られている。

黒澤自身が戦時中に作った『虎の尾を踏む男たち』をスケールアップしたような作品で、黒澤を始め四人の脚本家たちがアイデアを出し合って作った戦国時代の冒険活劇だ。

監督のこだわりで撮影日数や予算が大幅に超過したのが問題となり、東宝から独立して黒澤プロを作るきっかけとなった作品でもある。

時代冒険活劇の快作

『隠し砦の三悪人』の3悪人とは、侍大将・三船敏郎に凸凹百姓コンビ・千秋実と藤原釜足のことなのだろうか。しかし彼らはいかつい男と俗っぽい連中に過ぎず、悪人という程でもない。最初この映画を見た時、誰が悪人なのかタイトルに少し違和感を持ったものだ。

題名に三悪人と入れたのは、おそらく黒澤が敬愛するジョン・フォード監督の西部劇『三悪人(THREE BAD MEN)』が由来なのだろう。この映画はお尋ね者である3人の悪人たちが実は善良な心を持ち、父を殺された1人の女性を守るというストーリーである。

『隠し砦の三悪人』はタイトルにその作品名を入れることで、ジョン・フォード監督にオマージュを捧げているような気がする。

『隠し砦の三悪人』のエピローグでは、お姫様役の上原美佐を中心として左に侍大将の三船敏郎を右に裏切り御免の藤田進を従える3ショットが写し出される。これをもって3悪人の構図が入れ替わったという説もある。

映画が始まって間もなく城に囚われた捕虜の暴動が描かれるが、スタジオセットで撮られたと思えないほど迫力に満ちた場面になっている。囲いを突破した群衆が石垣の間の石段を駆け下りるモブシーンは、大勢のエキストラ達が激しく動いたため頑丈に造られた石段のセットが、もう少しで壊れそうになったというエピソードがあるほどだ。

三船敏郎の侍大将ぶりも格好良く、馬の手綱から両手を離し駆けながら敵と刀で戦うシーンは有名だ。それと、三船が敵に囲われた娘の腕を掴み馬上へ引き上げ、そのまま門を駆け抜けるシーンの鮮やかさはいつ見ても気持ち良い。

『天国と地獄』

続けて9日に放送されるのが『天国と地獄』。黒澤監督が作った最高のサスペンスドラマで『赤ひげ』があまり好きではない自分にとって黒澤最後の傑作といえる映画だ。誘拐事件を題材とした作品で、誘拐犯に脅迫される靴製造会社の重役権藤金吾を三船敏郎が演じる。

権藤邸に子供を誘拐したと脅迫電話が掛かってくる。しかし誘拐されたのは権藤の子供ではなく、間違えて連れ去られた運転手の子供だった。映画の開始から約1時間、屋敷内だけで息の詰まるような展開と苦渋の選択を迫られる権藤の葛藤が濃密に描かれている。

権藤邸のシーンが終わると場面は一転し、閉塞感を打ち破るように“特急こだま”が走り抜ける。閉ざされた空間から一気に解放感のあるシーンへの切り替えは、まさに黒澤映画のダイナミズムと編集の巧みさを感じさせるシーンだ。

本物の列車を使った身代金受け渡しのシーンは撮り直しのきかない一発勝負の撮影で、その緊張感は画面を見ても伝わる演者たちの必死の演技に表れている。

サスペンス劇の傑作

映画の後半は、主任刑事役の仲代達矢を中心に描かれる。仲代率いる捜査班は誘拐犯を特定しても直ぐには捕らえず、さらに罪を重くするため罠を仕掛け殺人を犯させるような描写がある。これはいくらなんでも酷いのではないかと、当時かなり批判を浴びたようだ。

ラストのシーンは、財産や重役の地位を失いながら世間の支持を受け立ち直りつつある権藤が、刑務所に収監され死刑を待つ誘拐犯役の山崎努と面会するシーンで終わる。

黒澤はこれまでの『野良犬』『七人の侍』といった作品で、犯人や野武士など敵役を深く描くことがなかった。それは『天国と地獄』も同じことで黒澤はこの映画のラストシーンで、似た境遇にありながら勝者と敗者に別れた両者の人間性の違いを対比させるつもりだった。しかし山崎努はこの犯人役に入り込みすぎ、最後のシーンで底辺に生きる人間の挫折と苦悩を露わにしてしまった。

最初に意図したものと違っていたが、黒澤は山崎努による熱演シーンを採用した。このラストはどの黒澤作品より、重く腹に響くような終わり方となっている。

スポンサーリンク
スポンサーリンク




スポンサーリンク




シェアする

フォローする

スポンサーリンク
スポンサーリンク