朝日放送制作『探偵!ナイトスクープ』は関西地区を中心として、長年人気を保っている番組だ。視聴者からの調査依頼を受け、探偵と称するタレントたちが出かけて解決にあたり、時には面白く時には感動的に伝えてくれる。
ただ開始から30年以上になるため、依頼内容が過去のものと被りマンネリ気味になっているのは否定できない。またローカル局制作ゆえの予算不足から、依頼を解決せず中途半端に終わらせたり、反対に明らかな尺伸ばしでチープな内容のVTRになっていることもしばしばだ。
それでも月に1本か2本は傑作VTRが見られたりするので、視聴を止められないでいる。
いつも放送1回にあたり3本のVTRが流されるが、先日の放送では番組の最後で23年前の依頼文が紹介されていた。
それは当時24歳だった女性からのもので、東京で働いていた時に里から送られてきた京都名物のお饅頭を会社の人に配って廻り、自分の席に戻った時の事だそうだ。
自分用にとっていたお饅頭が机の上から無くなっていたので、京都の言い方で「私のおまん、知りませんか」と大声で周囲に尋ね、更に「私のおまん、無いんです」と言って皆に笑われ、大恥をかいたという微笑ましいエピソードが紹介されていた。
そこで依頼は「女陰」の名称の全国方言分布図を作成して欲しいと求めるものだったが、放送に適さない内容のため取り上げられることはなかった。これが今になって紹介されたのは、番組のチーフプロデューサー松本修さんが『全国マン・チン分布考』という本を出版したからである。
まだこの本を読んでいないが、決して興味本位的なものではなく、民俗学・言語学に真摯な姿勢で取り組み、日本語や文化・風俗について考えさせる内容となっているようだ。
だが、そもそも女性視聴者から上記のような依頼が送られてきたりこの本が出版されたりしたのも、以前に出された『全国アホ・バカ分布考』という本が好評だったからだ。
『全国アホ・バカ分布考』は、関西の言葉アホと関東の言葉バカとの境界線を知りたいという番組への依頼から誕生し、学術的にも高い評価を受けた本で番組自体も数々の放送賞を受賞している。
結構分厚い本だが内容を簡単に紹介すると、方言には柳田國男が提唱した蝸牛考(かぎゅうこう)或いは方言周圏論という説があり、調査でそれを立証し全国アホ・バカ分布地図を作るというものだ。
つまり言葉というものは同心円状に広がるもので、アホ・バカもかつて日本の中心だった京都から発祥し、外側へ円を描くように地方へ拡散していったということだ。だから比較的新しい言葉の「アホ」は関西地区周辺で多く使われ、古い言葉である「バカ」は関東や中国・九州地区で使われているということになる。
だが実際はそんな単純なものではなく、地域性や地形的な条件もあって各地で多種多様な方言が存在しており、言葉の文化は複雑なものだと知ることが出来る。本文は570ページくらいあるが内容が面白いので、一度目を通せばサクサク読み進められるだろう。