映画と船 クラシック編




船という乗り物は、映画にとってうってつけの舞台と言える。廻りから隔絶した空間で濃密なドラマが生まれ、大海原という自然に立ち向かう人間達の闘いも描くことが出来るからだ。ということで今回は船が舞台となる映画を扱ってみたい。

まず最初に取り上げたいのが、映画史における記念碑的作品『戦艦ポチョムキン』だ。ソビエトの映画作家セルゲイ・M・エイゼンシュテインが1925年に制作したサイレント映画で、モンタージュ理論を確立した史上名高い作品である。

モンタージュとは様々なカットを意図して組み合わせることで、シーンの効果を高めたり別の意味を生み出す編集方法のことだ。例えば男の顔・太陽・コップの水という別々のカットを組み合わせれば、言葉で説明しなくても男が水を飲みたがっているシーンとなる、みたいなことだ。

この作品はロシア帝政時代に起きた戦艦ポチョムキン号の叛乱事件を扱っており、ロシア革命前夜の抑圧された国民が蜂起する様子を描いたプロパガンダ映画である。この映画の中の“オデッサ階段”虐殺シーンはつとに有名で、ブライアン・デ・パルマ監督『アンタッチャブル』など多くの映画で引用されている。90年以上前のサイレント映画だが、迫力に満ちた映像で今でも見応えのある作品だ。

軍艦が舞台の叛乱ものとしては、1935年のアカデミー作品賞を獲った『戦艦バウンティ号の叛乱』がある。18世紀末実際に起きたイギリス海軍の反乱事件を元にした小説が原作で、この作品を含め4回も映画化されている。

『戦艦バウンティ号の叛乱』ではクラーク・ゲーブルが叛乱を主導する航海士を、チャールズ・ロートンがサディスティックな艦長を熱演し、ロートンがアカデミー主演男優賞を受賞している。1962年にはマーロン・ブランド主演の『戦艦バウンティ』という作品も作られている。

エドワード・ドミトリク監督の『ケイン号の叛乱』は第二次世界大戦中の駆逐艦が舞台となっており、ハンフリー・ボガートがパラノイア(偏執症)の艦長を演じている。

任務を遂行出来なくなり艦船を危機に陥れた艦長ボガートを、副官と新入りの士官候補生が協力し指揮権を奪って事態を収拾する。だが帰国後その正当性について、二人の行為は裁判(軍法会議)で問われることになる。

もし指揮権剥奪の行為が不当と認定されれば、二人は反逆罪に問われ死刑にもなりかねなかった。そこで敏腕の弁護人に協力を依頼するが、それでも事態は不利な方向に進んでいく。やがて軍法会議は最終局面を迎え、解任された艦長ボガートの証言によって二人の運命は決せられることになる。

映画の前半は海洋ドラマ、後半は法廷サスペンスとなっており非常に面白いストーリーとなっている。

この映画の前にハンフリー・ボガートはオンボロ貨物船の飲んだくれ船長も演じている。それが、ジョンヒューストン監督の『アフリカの女王』で共演はキャサリン・ヘプバーン。第一次世界大戦中、敵のドイツ軍相手に奮戦する様子を、男女のロマンスを交え描いた冒険映画である。

アフリカの河をオンボロ貨物船で渡るボガートとヘップバーンが、反発しながらも苦難を克服しやがて惹かれ合ってゆくという定番ものだが、ハラハラする展開で楽しませる映画だ。

ジョン・ヒューストン監督には『白鯨』という海洋スペクタクル映画もある。アメリカの良心の象徴という印象が強いグレゴリー・ペックが、足を奪った巨大な鯨へ復讐しようとする狂気の船長を熱演しているのが面白い。

クライマックスとなる白鯨との格闘シーンは、今見ればミニチュアによる作り物感が古くさく思える。しかし見せ方の巧さもあり、それなりの迫力を感じさせるシーンとなっている。

太平洋戦争中の海軍輸送船における人間模様を描く、ブロードウェイの舞台劇を映画化したのが『ミスタア・ロバーツ』だ。ヘンリー・フォンダ演ずるロバーツ副官を中心とした群像劇で、ジャック・レモンがアカデミー助演男優賞を獲っている。

専制を振るう艦長に耐えながら小さな反抗を試みる乗組員たちをコミカルに描くと共に、彼らを通して副官ミスタア・ロバーツの高潔さを浮かび上がらせている。

舞台でもこの役を演じ思い入れの深かった主役のヘンリー・フォンダは監督ジョン・フォードの演出が気に入らず彼を非難し、怒ったフォードがフォンダを殴ったというエピソードがある。その結果、監督はフォードから途中でマービン・ルロイに交替している。

ロバート・ワイズ監督『砲艦サンパブロ』は1920年代革命期の中国を舞台に、激動の時代の中翻弄される人々を描いた3時間超の大作映画である。

スティーブ・マックイーンが正義感の強いオンボロ砲艦の水兵を好演し、アカデミー主演男優賞にもノミネートされている。戦争の不条理や虚しさに悩みながらも己の矜持を貫き、軍人としての使命を果たそうとするマックイーンの姿が格好いい。

豪華客船が津波で転覆し、上下逆さまになった船内で人や物が落ちていく大掛かりな撮影が話題となったのが『ポセイドン・アドベンチャー』である。『大空港』に続くパニック映画だが、この作品の大ヒットにより70年代に一大パニックブームが湧き上がる。

40数年前の映画なので当然転覆する船内のシーンは全て実写であり、本物の迫力に溢れている。この転覆シーンは映画の序盤に過ぎず、大半は沈みゆく船から脱出を図る人々の苦闘が描かれており、その群像劇も秀逸だ。

2006年のリメイク作『ポセイドン』は人間描写が薄いだけでなく、CGだらけの映像も嘘っぽくて迫力を感じない駄作だ。技術がどれだけ発達しても、決して物語が面白くなる訳では無いという見本である。

イギリス製の海洋パニック映画にリチャード・レスター監督『ジャガー・ノート』がある。豪華客船に時限爆弾が仕掛けられ、その対処にリチャード・ハリス演じる爆弾処理のスペシャリストが送り込まれる。

しかし爆弾犯の仕掛けた罠は巧妙でハリスの仲間にも犠牲者が生じ、緊張の中制限時間は刻一刻と近づいてくる。イギリスらしいミステリー風味の、スリルに満ちた一級のサスペンス映画だ。

最後に、ちょっと変わった船の映画として当時西ドイツの監督ヴェルナー・ヘルツォークが作った『フィツカラルド』という作品がある。この作品では巨大な蒸気船が川を進むだけではなく、山をも越えていく。もちろん模型とかアニメとかではない。本物の蒸気船を人間たちがワイヤーと滑車を使い、山を切り開きながら頂まで引っ張り上げ、その様子を実際に撮影しているのだ。

映画は南米に住む男がオペラハウス建設の資金を得るため、アマゾン河上流にある未開のゴムの木地帯を目指して踏破不能の山も越えようとする物語だ。

船を山越えさせようとする主役フィッツジェラルドの姿は、監督ヘルツォークとともに狂気を感じさせるものである。

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