ハリウッドの映画界にはかつてアラン・スミシーという謎の監督がいた。彼の監督作品としてアクション映画『ハリー奪還』やSF映画『クライシス2050』西部劇『ガンファイターの最後』などがあるが、作風もバラバラだし誰も彼のことを知らないのだ。
1955年から1999年まで70本以上のテレビドラマや映画に携わるという長いキャリを持ちながら、誰も彼に会ったことが無く会話さえした者がいない。それが謎の監督アラン・スミシーである。
実は、アラン・スミシーという人物は存在せず、便宜的に使われる架空の監督名なのだ。ハリウッドでは監督の権利を守るため、映画のスタッフクレジットに必ず監督名を入れるという規定がある。
だが時にはトラブル等により、監督が自分の名前をクレジットに乗せるのを拒否する場合もあるのだ。例えばプロデューサーや主演俳優とぶつかり途中降板した時とか、編集により作品が監督の意図するものと大きく変わってしまった場合である。
そういったケースで、パブリック・ドメイン(公有の匿名)としてこの名前が使われていたのだ。アラン・スミシーというのは目立たないがありそうにない名前ということで、選ばれたらしい。
『アラン・スミシー・フィルム』というシルベスター・スタローン、ウーピー・ゴールドバーグ、ジャッキー・チェン出演のコメディ映画があるが、これも監督の名義はアラン・スミシーである。しかしこの名前は使われるうちに意味が知れ渡ってしまい1999年以降は使用されず、今は特に決まっていないようだ。
ちなみに原田眞人監督のSF映画『ガンヘッド』のアメリカ公開版も、監督はアラン・スミシーとなっている。これはアメリカ版の編集に原田監督が携わっておらず、自分の名前が使われる事を拒否したためである。
日本でも芸能評論家 “麻生千晶” がパブリック・ドメインではないかとされているが、はっきりしたことは分からない。一応公式サイトやWikipediaが存在し、それを見ると今年80歳の女性らしいがなんだか怪しい気もする。