溝口健二「雨月物語・山椒太夫・近松物語」デジタル修復版

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世界的名作『雨月物語』

前回の記事の続きで、今回は溝口健二のデジタル修復版。『羅生門』のベネチア映画祭グランプリ獲得で、大映社長の永田雅一は外国映画賞の影響力の強さを悟る。そこで既に巨匠としての名声を持っていた溝口に、賞狙いで撮らせた作品が1953年『雨月物語』である。

この作品でカメラマンをしているのが宮川一夫で、溝口とは『お遊さま』に続く2回目のコンビであった。

古典の雨月物語に題材を取ったこの作品はいわゆる幽霊譚で、その幻想的で甘美な雰囲気を表現するのに宮川はカメラマンとして手腕を発揮している。

特に、湖上で船が進むシーンでは背景の濃い霧と光に煌めく水面の描写が秀逸で、観客を物語世界にいざなっている。

巨匠 溝口健二の手法

『雨月物語』は思惑通りベネチア映画祭の銀獅子賞を獲得、翌年の『山椒大夫』も同賞を受賞し52年の『西鶴一代女』と併せて溝口健二監督の名を世界に知らしめることになった。

溝口健二と言えば長回し撮影が有名だが、この特集番組の中でもこの手法を多用する理由が述べられていた。溝口はひとつの構図の中で、人間の心理が盛り上がるのを捉えるという演出を好んでいたようだ。そのためカット割りにより連続性が絶たれるのを嫌ったので、必然的に長回しになっていったようだ。

溝口の演技に対する要求は高く、撮り直しが容赦が無く行なわれた。役者の演技が溝口の望む所に達するまでいつまでも撮影が続くが、演者に対し明確な演技指導は与えることはない。上辺の演技ではなく内面から湧き出るものを表現させるため、役者をとことんまで追い詰め自然に感情が沸き立つまで待つのだ。

こうして溝口作品では田中絹代を始め、京マチコ・香川京子・若尾文子・木暮実千代といった女優たちが輝いていったのである。

1954年の『近松物語』は、近松門左衛門『大経師昔暦』と、井原西鶴『好色五人女』の1エピソードを合わせて映画化したものである。内容は江戸時代に実際起きた不義密通事件を題材にしており、溝口はそれを少しの過ちから追われる身となった男女の悲恋物語として格調高く描き上げている。主演は二枚目俳優の代表と言われた長谷川一夫と、当時23歳の香川京子。

溝口は長谷川一夫の起用に難色を示したが、大映社長の永田雅一に押し切られる形となった。大映の巨匠と大スターの共演はかなり張り合うところがあったようだが、その緊張関係が作品にとって上手い具合に作用している。香川京子は前年小津安二郎の『東京物語』に出演しており、のちに黒澤作品の常連にもなっていて、三大巨匠のお気に入り女優となっている。

海外作品への影響

この作品も宮川一夫が撮影を担当しており、その画像の鮮やかさや力強さは観客を引きつける。マーチン・スコセッシ監督は初めて見たこの映画に驚き、2016年の『沈黙 -サイレンス-』ではオマージュを捧げたシーンを撮っている。

溝口の演出と宮川の撮影はのちのヌーベルバーグにも大きな影響を与え、特にジャン・リュック・ゴダールは『軽蔑』で彼らの手法を真似ている。

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