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スタンリー・キューブリック「2001年宇宙の旅」

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リアルな宇宙描写

前回の記事で1995年公開のロン・ハワード監督『アポロ13』に触れたが、この映画は当時本格的に使われ始めたCG技術でサターンV型アポロ13号の打ち上げシーンを再現している。何も知らずにこのシーンを見ると、ここまで鮮明な打ち上げ映像があったのかと勘違いしてしまうほどだ。

またこの映画では無重力を作り出すため、改造した航空機を600回も急降下させて撮影し映画を完成させている。

またアルフォンソ・キュアロン監督『ゼロ・グラビティ』では最新の撮影技術のもと、臨場感に満ちた宇宙空間を作り出している。

高度なテクノロジーを駆使しデジタル加工された描写はリアルで美しく、映像表現はこんな領域まで達したのかと驚かされる。もっともこの作品はフィクションなので、全てがリアルな訳ではなく映画的に脚色されたり誇張した演出がなされているのだが。

これらのリアルな宇宙を描くもとになったSF映画の金字塔がスタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』である。この映画が公開されたのが1964年の4月で、アポロ11号で人類が初めて月に降り立つ1年前だ。それから既に50年以上経つのに、この映画の映像はまったく古びていない。

人類進化の物語

『2001年宇宙の旅』の映像が古びていないのは完全主義者のキューブリックが徹底的に科学的考証を行ない、本物に近い宇宙を描くため撮影に途方もない手間を掛けたためである。そのため映画の完成まで彼は4年の歳月を費やしている。

この映画は簡単に言えば、人類が正体不明の石板状物体モノリスによって知的進化を促される話である。物語は言葉を喋らない類人猿の物語から始まり、木星に向かうディスカバリー号のエピソードを挟んで終盤船長のボウマンがスターチャイルドに昇華するシュールな映像で終わるが、説明は一切されないので難解な作品と受け取られがちだ。

最初ナレーションが入る予定だったが、キューブリックはそれをカットし解釈を観客に委ねている。そのため、この映画を哲学的あるいは宗教的に捉えることも出来るが、脚本を担当したアーサー・C・クラークの小説やのちにキューブリックがインタビューに答えた説明を見るとそこまで深く考える程のものでもない。

キューブリックがやりたいのは、リアルな宇宙の表現と今まで誰も見たことのない映像を作り出すことである。だから難解だろうがシュールだろうが、ストーリーに深くこだわる必要はないのである。

この映画はリアルな宇宙感を出すため、重力と音の描き方に工夫を置いている。普通のSF映画はテンポと演劇効果を優先するため、重力や音には無頓着でそれは今も変わらない。だがこの映画では間延しても、科学的根拠に基づいた描写が重要なのだ。

また、宇宙服を着て船外に出ればもはや何に当たっても音は伝わらず、聞こえるのはヘルメット内の声と呼吸音だけである。そんな描写をしたのはこの映画が初めてで、この後も宇宙空間で効果音がない作品は、上記の『ゼロ・グラビティ』を含めごく僅かだ。

キューブリックのこだわり

『ゼロ・グラビティ』の場合効果音は無くてもしょっちゅう通話をしているし、映像も派手なので間が持つが『2001年宇宙の旅』は淡々とした描写が続くので、よほど映像に力が無ければ間は持たないだろう。

その力強い画でリアリティーを生み出しているのが、ディスカバリー号の白い船体と宇宙の暗さのコントラストの鮮やかさだ。それは簡単なことではなく普通の撮影では白が滲んでしまい、これほどのコントラストは生まれない。

そこで用いた撮影技法が”長時間露出”というものだ。大きな宇宙船の模型に強い光を当て、シャッターを600秒も開き続けて被写体の明るさを最大にする方法だ。この手法では1秒の動画を作るのに4時間を要し、完成するまで途方もない時間と手間が掛かる。

更に宇宙船と背景の宇宙を違和感なく合成するのにも苦労し、そのため嫌気がさして逃げ出したスタッフもいたらしい。

謎の石版物体モノリスも、表面がのっぺりとしているのでフィルムに描いた絵に見えるがそうではない。このモノリスは木材を加工し黒く塗られた物で、キューブリックによって指紋さえ付けることも許されず保管には難儀したようだ。

最初キューブリックはモノリスを透明な物体にしたかったようだが、特殊な素材を使い表面を3週間磨かせたものの思ったより透明にならなくて破棄させたというエピソードもある。

この映画に対するキューブリックの拘りを挙げていったらキリが無いが、彼の執念と技術的探究心により映像はリアルで力強いものに出来上がっている。『2001年宇宙の旅』の登場によってそれまでのSF映画は一気に古びてしまい、編み出された新しい撮影手法はさらに革新され『スターウォーズ』にも繋がっていく。

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