ご存じのように、12月14日は赤穂浪士が吉良邸討ち入りを果たした忠臣蔵の日とされている。もちろんこれは旧暦による日なので、今の暦では1月30日という事になる。それはともかく、先日BS放送で2本の忠臣蔵映画が同時刻に放送されていたので、両方録画して見比べてみた。
今回録画して見たのは、1958年大映製作の『忠臣蔵』と1962年東宝製作の『忠臣蔵 花の巻・雪の巻』である。いずれも日本映画最盛期の頃の、豪華絢爛なオールスター映画だ。
今まで忠臣蔵映画なんてベタ過ぎると思いなんとなく見逃していたが、改めて見ると結構面白い。なんと言っても役者やセット・小道具が重厚で、贅沢な雰囲気に浸れるのが心地良い。
まずは大映の『忠臣蔵』から。監督は渡辺邦男で上映時間は166分。渡辺監督は早撮り名人として知られ、この映画も35日で撮り終えたそうだ。主演の大石内蔵助に長谷川一夫、浅野内匠頭が市川雷蔵という配役で吉良上野介役の滝沢修がいい味を出している。
他にも鶴田浩二・勝新太郎・志村喬・二代目中村鴈治郎といったスターや名優が出演しているが、加えて女優陣も凄い。山本富士子・京マチコ・若尾文子・淡島千景・木暮美千代・中村玉緒・東山千栄子といった顔ぶれは、数ある忠臣蔵映画の中でも一番豪華な女優陣だと言えるだろう。
印象としては正統派で比較的分かり易い忠臣蔵映画だと思う。忠臣蔵物語は本伝のほかに義士銘々伝や外伝といったサイドストーリーも多いのだが、この映画は主役大石内蔵助を中心に語られているのですっきりして分かり易い。
それにしても長谷川一夫の演技は風格たっぷりで、映画に大作としての安定感を与えているのは流石だ。ちなみに64年のNHK大河ドラマ『赤穂浪士』でも、長谷川一夫と滝沢修がそれぞれ大石内蔵助と吉良上野介を演じている。
多少ダイジェスト感もないではないが、ポイントはしっかり押さえこれぞ忠臣蔵映画と思わせる。ただクライマックスの討ち入りシーンは5分程度しかなく、あっさりしている印象だ。
東宝『忠臣蔵 花の巻・雪の巻』は上映時間が2本合わせて188分、監督は名匠・稲垣浩。大石内蔵助は八代目松本幸四郎で浅野内匠頭に加山雄三。54年の松竹作品にも同名の映画があり、こちらも松本幸四郎が大石内蔵助で滝沢修が吉良上野介だ。
キャストに名を連ねるのは、三船敏郎・三橋達也・志村喬・小林佳樹・森繁久彌・フランキー堺など。三船が演じる俵星玄番はサイドストーリー的人物だが、印象の強い美味しい役だ。他にも東宝らしく三木のり平や由利徹などの喜劇系役者も多く出演している。女優陣は原節子・司葉子・池内淳子・淡路恵子・草笛光子・新玉三千代・沢村貞子とこちらも豪華だ。
この忠臣蔵は少し現代的な味付けがしてあり、それはそれで興味深い。サイドストーリーの方に時間を割いており、運命の非常さに苦悩する男女を描いているのは稲垣浩っぽいと言える。だがそのおかげで大石内蔵助の出番が少なく、主役の存在感は薄いかもしれない。
吉良上野介が分かり易い悪役で類型的だが、そこは割り切っているのだろう。その分加山雄三演じる浅野内匠頭が刃傷に及ぶいきさつや、心理がじっくり描かれていて非常に面白かった。
音楽は伊福部昭が担当しているが、討ち入りシーンのBGMがそのまま『ゴジラ』で斬新と言えば斬新だ。この討ち入りシーンには尺を使っていて、細かい点にも気を配っており結構凝っている。2本合わせて3時間超の長さだが、見せ場も多くまったく退屈しなかった。
もっとも時代劇と言えば片岡知恵蔵や市川右太衛門がいた東映のお家芸で、昭和30年代前半には毎年のように忠臣蔵映画を作っている。機会があれば、是非こちらも見てみたい。