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「ブレードランナー」ファイナル・カット

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世界中に熱狂的なファンを持つカルトムービー

1982年公開の『ブレードランナー』と言えば、世界中に熱狂的なファンを持つカルトムービーである。内容をざっくり言ってしまうと、近未来を舞台にしたハードボイルドまたはフィルム・ノワールと言うべき作品でその中に哲学的・宗教的な味わいも含ませている。

79年の『エイリアン』一躍その名を知られたリドリー・スコット監督が、更にその名声を確立することになった作品だ。

同年に公開された『E.T.』の2.7倍に及ぶ制作費が掛けられた大作だが、公開当時は難解なストーリーに観客がついてこられずヒットしなかった。

しかしビデオが発売されるとその圧倒的な映像美に年々評価が高まり、物語の解釈についても盛んに議論されるようになった。そしてキューブリックの『2001年宇宙の旅』が宇宙SFの新しいスタンダードとなったように、この映画も近未来SFのスタンダードとなって現在の映画に大きな影響を与えている。

その『ブレードランナー』のファイナル・カット版と、関係者のインタビューで構成されたドキュメンタリー『デンジャラス・デイズ/メイキング・オブ・ブレードランナー』が、27日BSプレミアムで放映されていた。

ちなみに“デンジャラス・デイズ”とは『ブレードランナー』脚本段階のタイトルだが、困難を極めた撮影を示唆する言葉でもある。2017年には、35年振りの続編となる『ブレードランナー2049』も製作されている。

リドリー・スコットの近未来都市

リドリー・スコットは初公開時の編集に不満を持っていて、作品の評価が上がるのに伴い編集し直したバージョンをいくつも作っている。今回放送された2007年製作のファイナル・カット版は、デジタルによる修正や撮り足しも加え新たに作り直した最終バージョンである。

ファイナル・カット版で新たに挿入されたのが、白いユニコーンのシーンだ。これはデッカード(ハリソン・フォード)がレプリカントだと示唆するシーンなのだが、初公開時にはカットされていた。

当時新参者扱いだった監督には最終編集権がなく、物語が混乱すると考えた映画会社側にカットされたのだ。しかし、リドリー・スコットはその設定を捨てきれず編集版で復活させている。

『ブレードランナー』で表現される近未来の都市とは、レトロフィットと呼ばれる新旧を融合させた建築群のことである。従来の映画で描かれた未来都市は、整い過ぎていて現実感がなかった。それをリドリー・スコットと美術デザインのシド・ミードが、斬新で実存感のある未来都市を作り上げたのだ。

この映画の登場人物たちが現われるのは常に夜で、しかも雨が降ったりスモークが漂ったりしている。これは経費節減で細部の粗を隠すためだったが、同時に末期的な都市の佇まいと幻想的雰囲気を醸し出すという効果も狙っている。

一方で遠くに写る部分には気を使い、映像はしっかりした奥行きを保っている。そこへ照明技術の高さもあって、現実のものとは思えない世界が出現している。

宗教的・哲学的な問いかけ

CG映像が溢れる今では特に凄い映像でもないが、当時の特殊撮影といえば模型とマットペイントと呼ばれる背景画の合成を使うしかなかった。その限られた技術で、ここまでの物を作り上げたセンスとイマジネーション、そして妥協のない映像への拘りが映画の芸術性を高めている。

この未来都市は香港の雑多な街をイメージしているが、日本語の看板も目だつ。もちろん『ブレードランナー』のスタッフは意味も分からず日本の雑誌や新聞から文字を拾っており、画面には写ってないがスチール写真で “落合博満” の名前が確認できたりする。

それにハリソン・フォードへ「二つで充分ですよ」と日本語で言っている屋台の店主が面白い。ちなみに店主が言う 「二つ」とは、画面には登場しないが、丼にのせる魚の数のことである。

リドリー・スコットたちが作り上げた幻想的な映像からは、宗教的な厳かさが感じられる。この映画では既存のサイボーグという言葉を使わず、レプリカントという呼称を新たに作った。

それはレプリカントがより人間に近い存在であることで、根源への探究や生への恐れといった命題が浮き上がってくるからだ。レプリカントを見分けることは、人間とは何かという哲学的な問いかけにも繋がるのだ。

レプリカントの叛乱リーダー、ロイ・バッティー(ルトガー・ハウアー)の姿は、破壊者にも見えるが神々しさもある。その臨終の佇まいはキリスト、或いは彫刻的な探求者像を思わせるものだ。そして彼が訴えたかったものや、何を残していったのかは観客の判断に委ねられた。そういった解釈の多様性が、多くのファンを引きつける要因の一つとなっているのだろう。

続編の『ブレードランナー2049』は前作の世界観を引き継いでいるうえ、更に新しい要素もあるというファン絶賛の作品である。ただ前作を知らないと良さが分からない部分も多いので、あらかじめファイナル・カット版で予習しておいた方がいいだろう。でないと上映時間が2時間43分と長く、初見では置いてけぼりになってちょっと苦痛かもしれない。

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