22日アメリカの映画の祭典、アカデミー賞の各賞候補が発表された。作品賞にノミネートされたのは『ROMA/ローマ』『グリーンブック』『ブラック・クランズマン』『ブラックパンサー』『ボヘミアン・ラプソディ』『アリー/スター誕生』『女王陛下のお気に入り』『バイス』の8作品で、『ROMA/ローマ』と『女王陛下のお気に入り』が今回最多の10部門で候補となっている。
受賞発表と受賞式は2月24日(日本時間25日)に、ハリウッドのドルビー・シアターで執り行なわれることになっている。まだほとんどの作品を見ていないんだけど、とりあえずそれぞれの簡単な紹介を。
この作品は映像派アルフォンソ・キュアロン監督の『ゼロ・グラビティ』以来5年振りとなるメキシコ映画である。キュアロンの半自伝的な作品となっており、子供のときに慕った家政婦を中心に激動の時代を生きた家族が描かれる。
ちなみにタイトルの“ROMA”は、メキシコシティにある地名のことだ。モノクロだが美しく情緒に溢れた映像が話題となり、18年のベネチア映画祭で金獅子賞も獲得している。
アカデミー作品賞獲得となれば、ギルレモ・デル・トロの『シェイプ・オブ・ウォーター』に続くメキシコ監督による栄誉となる。だがこの作品はNetflixによる配給で、外国映画・世界三大映画祭受賞作というのも保守的なアカデミー会員の票を集めるには不利な点だ。そういった前例を考えると、作品賞受賞は難しいかも知れない。
『ROMA/ローマ』の作品賞受賞が難しいとなれば、代わって最有力候補となるのがこの作品だろう。黒人のジャズピアニストと彼に雇われた白人運転手が、差別の残る60年代の南部でツアーをするという実話をもとにしたバディームービーである。インテリの黒人と無教養の白人という組み合わせがユニークで、差別問題も絡めて描くヒューマンストーリーとなっている。
主演のヴィゴ・モーテンセンは『ロード・オブ・ザ・リング』のアラゴルン役でも有名だが、今回の演技で各映画賞の主演男優賞にノミネートされている。
『マルコムX』などの作品で知られる鬼才、スパイク・リー監督による社会派サスペンス映画である。舞台は1979年のコロラドスプリングスで、黒人警官が白人至上主義の差別団体クー・クラックス・クラン(KKK)への潜入捜査を行なうという物語だ。ちなみに主演のジョン・デヴィッド・ワシントンは名優デンゼル・ワシントンの息子だそうだ。
マーベルスタジオ制作によるアメコミスーパーヒーロー映画として、初めてアカデミー作品賞にノミネートされた作品。この映画はアメリカで『アベンジャーズ』を越える大ヒットとなり、作品自体の評価も高い。キャストや制作スタッフの大半が黒人で、異色のマーベル作品と言える。
伝説のロックバンド“クイーン”のボーカル、フレディ・マーキュリーを中心に描いた音楽映画。迫力あるコンサートシーンと“クイーン”再現度の高さで、日本では大ヒットを記録している。
しかし内容は凡庸だと決して評価は高くなく、どうやらオスカー像には手が届かないようだ。ちなみに監督のシンガーは少年への暴行疑惑が噂されており、完成2週間前に現場に来なくなり映画会社に解雇されている。
『スター誕生』は過去何度もリメイクされた名作で、54年のジュディ・ガーランド主演作や76年のバーブラ・ストライサンド主演作が有名だ。
第4作目となるこの作品の監督は『アメリカン・スナイパー』で主演を務めた俳優のブラッドリー・クーパーで、主演は人気歌手のレディー・ガガだ。クーパーの初監督作品ではあるが、なかなか上手く作ってあるらしい。レディー・ガガも主演女優賞の有力候補となっている。
オリヴィア・コールマン、レイチェル・ワイズ、エマ・ストーンという三大女優による18世紀初頭のイギリスを舞台とした宮廷劇。ベネチア映画祭では銀獅子賞と、コールマンが女優賞を獲得している。
レイチェル・ワイズは代表作『ナイロビの蜂』でアカデミー助演女優賞に輝いており、ダニエル・クレイグとは夫婦でもある。エマ・ストーンも『ラ・ラ・ランド』でアカデミー主演女優賞を獲得した若手No.1女優だ。
テロとの戦いに明け暮れたジョージ・W・ブッシュ大統領のもとで影響力を発揮した、ディック・チューニー副大統領を描く社会派ブラックコメディーである。チェイニー副大統領は“影の大統領”と呼ばれるほど力を持った政治家だったが、毀誉褒貶が激しく悪評も絶えない人物だ。
この映画は、そんなチェイニーの実像を描き出そうと試みた意欲的な作品である。主演のベールは『バットマン ビギンズ』の前に撮った『マシニスト』で30キロ減量するという役作りをしているが、この作品でも20キロ増量したり髪を剃ったりとチェイニーになりきっている。
(青字と赤字になっている人物名は、監督賞と主演俳優賞の候補となった人たちです)
今回のノミネート作品を見ると、実話ベースの作品と黒人や黒人問題を扱った作品が多いようだ。もっともこれは最近の傾向で、作品賞を獲った『それでも夜は明ける』や『ムーンライト』の記憶も新しい。
だとすると『グリーンブック』が有力な候補作だと考えられる。だがもし『ROMA/ローマ』が作品賞を獲るようなことがあれば、アカデミーの前例を打ち破った快挙ということになる。
他に日本関連の作品として、外国映画賞に是枝裕和監督『万引き家族』と長編アニメ映画賞に細田守監督の『未来のミライ』がエントリーされている。また同じ長編アニメ映画賞にエントリーされているウェス・アンダーソン監督の『犬ヶ島』は日本を舞台にしたストップモーション・アニメである。