キューブリックの「時計じかけのオレンジ」

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キューブリックのSF3部作

1971年製作『時計じかけのオレンジ』は近未来のロンドンを舞台に、退廃的バイオレンスと国家統制の不条理さをビジュアルにより刺激的に描いた作品である。『博士の異常な愛情』『2001年宇宙の旅』と並び、キューブリックのSF3部作と呼ばれることもある。ちなみに“時計じかけのオレンジ”とは、機械のように操られる人間のことを指している。

この映画の原作はイギリスの作家アンソニー・バージェスによる、ブラックな風刺と独特の文体で書かれた小説である。その内容は管理社会とそこに生きる不良少年たちの行状を、彼らの言語“ナッドサッド言葉”を使い主人公のアレックスによる一人称で綴った物語だ。

アレックスは無軌道な暴力を繰り返した後、“ドルーグ”と呼び合っていた仲間に裏切られて警察に捕まる。そして彼は国家によって、“ルドヴィコ療法”という人間性を取り戻させる精神医療の実験台となってしまうのだ。

そして強制的治療を受けたアレックスは社会復帰を果たすが、彼の身の上に皮肉な結果が待っていた。

『ナポレオン』の企画が頓挫し手の空いた状態になったキューブリックが、たまたま読んだこの物語を気に入り映画化に取り組むことになった。低予算で作られたこの映画は、コロバ・ミルクバーや刑務所の検査所など一部セットを造った他は、実際の建物にロケをして撮影している。

アレックスと『雨に唄えば』

この映画が公開されると、激しい暴力描写に拒否反応を見せる者もおり、問題作と呼ばれた。だが映画が発する魅惑的な造形は観客に支持され、220万ドルの制作費で1500万ドルの配給収入を記録するという大ヒットとなった。日本でもゴールデンウィークの目玉作品として翌年に公開され、話題となって多くの観客を動員している。

“ドルーグ”の白ずくめのコスチュームは、アレックス演じるマルコム・マクダウェルがたまたま持っていたクリケットの衣装を採用している。キューブリックはそのクリケットの衣装に腰回りのプロテクターを加装着し、アナーキーなスタイルを生み出した。

この映画の暴力シーンで一番印象に残るのは、アレックスが『雨に唄えば』を口ずさみながら押し入った家の女性を犯す場面だろう。アレックスの性質を露わにする衝撃的なシーンだが、マクダウェルが歌詞を覚えているのはこの歌しかなく、この日の撮影後に急遽使用許諾を取ったというエピソードがある。

キューブリックの描く対象

キューブリックはインタビューでこの映画の主題を「国家によって選択権を奪われた市民は、人工的な操作により人間性を失ってしまうのか」と言うところにあると答えている。非常にロジカルで社会的なテーマを含んだ言葉だが、実はこの映画の本質はそこにはない。キューブリックの描きたかったのは、スタイリッシュで退廃的という新しい映像だ。

キューブリックは『博士の異常な愛情』あたりから非人間的人物を描くようになり、この傾向は遺作の『アイズ ワイド シャット』まで続く。もともとキューブリックは人間そのものに対する関心が薄く、彼が興味を持っているのはシステムやテクノロジーや対称性を持つ造形物といったロジカルな部分にあるからである。

だから『博士の異常な愛情』では正体不明なDr.ストレンジが象徴となり『2001年宇宙の旅』ではコンピューターのHALがクローズアップされる。

『時計じかけのオレンジ』でも非人間的なアレックスを主人公にしてバイオレンスを快楽として扱っている。キューブリックの言う社会的テーマなど口実に過ぎず、本当は暴力やセックスを刺激的に描いて観客を興奮させたいのだ。

本当のテーマは、暴力と性を刺激的なエンターテインメントとして昇華することにある。そしてそのキューブリックの企みは、ポップで斬新な装置と当時最新の撮影技術によって高いレベルで表現されている。

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