「一発屋芸人の不本意な日常」

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一発屋ならではの生態

『一発屋芸人の不本意な日常』はお笑い芸人・髭男爵の山田ルイ53世が自らの日常を、悲哀とユーモアを交え綴ったエッセイ本である。前著『一発屋芸人列伝』は、一発屋と呼ばれる芸人に取材してその生き様を紹介した味わい深い芸人論だったが、今回は一発屋ならではの生態を悲哀とユーモアを交え描いている。

とにかく達者な文章で、絶妙な言い回しと比喩で愉しませてくれる本だ。多少くどさを感じないでもないが、前著よりは読みやすくなった気がする。内容は一発屋ならではの自虐的なエピソードが続き、半端な立ち場にある芸人のやり辛さや苦労が語られる。

一発屋の役目

山田ルイは本の中で、「一発屋芸人の役目は、負けた姿を晒すことで視聴者に優越感を持って貰うことだ」と述べている。日頃の生活や仕事でストレスを溜めている人たちに、惨めな姿を見せ溜飲を下げさせるのが旬を過ぎた芸人の存在意義なのだ。

そのための代表的な役割が、自分の現在の給料を晒すという仕事だ。その金額が最盛期とのギャップが大きければ大きいほど、観客席は「ワァーッ」と湧き、視聴者も喜んでくれるのだ。

また肥満体型の山田ルイが健康番組に呼ばれるのは、身体が不健康であることを期待されるからである。そのためドロドロの血液と短い余命という検査結果に、山田ルイがほっと胸をなで下ろすという事実は何とも言い難い。

そんな山田ルイだが、もちろん最初から「ルネッサーンス」と叫ぶコスチューム・キャラ芸人だったわけではない。誰でも正統派のお笑い芸人として、賞レースやレギュラー番組を目指す。だが、その夢を叶えるのは一握りの人間でしかない。

芸人の世界で喰っていくため、髭男爵が試行錯誤したどり着いたのが、ワイングラス片手の貴族漫才だ。だが一時売れたとしても、いかにも色物な芸風はディレクターや作家といった作り手の食指は動かない。彼らの興味の対象は、山田ルイが「世界観芸人」と呼ぶセンスとオリジナリティを持った王道の若手芸人だ。

偏見へのささやかな抵抗

山田ルイはそんな「世界観芸人」に、嫉妬やプライドといった屈折した思いを包み隠さないが、あくまで筆運びはユーモラスで冷静だ。等身大の自分を描こうとする姿勢はフラットで、知性的なものを感じさせる。同じ芸人本でもエピソードを必要以上に盛り、自分を大きく見せようとする水道橋博士の著書より好感が持てる。

一発屋芸人は業界関係者だけではなく、一般人にもぞんざいな扱いを受ける。だが慣れっこの山田ルイは、現実を受け入れ淡々と日常をやり過ごすだけだ。

しかし一方で、そんな人たちの偏見や蔑みに対しささやかに抵抗し、皮肉を込めてやんわりと諫めてみせる。一発屋と言うだけでSNSで見下した書き込みをする人間は、所詮おのれの卑しさを晒しているに過ぎないのだ。

文章も面白いが内容も味わい深い。前著『一発屋芸人列伝』同様、芸人好きには読み応えのある一冊だと思う。

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