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「ローマの休日」ワイラーとヘプバーン

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日本での “妖精” 人気

『ローマの休日』は、ロマンチック・コメディのスタンダードとして60年以上経った今でも人気が高く、たびたびリバイバル上映やテレビ放送が繰り返されている有名な作品だ。

監督は名匠ウイリアム・ワイラー、主役の新聞記者にグレゴリー・ペック。だが『ローマの休日』と言えばやはり、この映画で世界を魅了した当時24歳のオードリー・ヘプバーンだろう。オードリーは気品と愛らしさを持ち、細身で純真なイメージから “妖精” と呼ばれるようになる。

『ローマの休日』が1953年にアメリカで公開されると、オードリーはたちまち世間の注目を浴びる。日本人が彼女のことを知るのは『キネマ旬報』54年新年号のグラビア付き紹介記事からで、反響の大きさから2月下旬号では早くも表紙を飾ることになる。

そして3月に彼女がアカデミー主演女優賞に輝くと、映画公開前にも関わらずたちまち日本でオードリー旋風が吹き荒れる。そしていよいよ4月に日本で映画が公開されると、大勢の観客が劇場に押し寄せ、ロマンチックで切ないストーリーとオードリーの魅力に酔いしれていったのだ。

実はこの年の1月、マリリン・モンローが夫ジョー・ディマジオと新婚旅行で日本を訪れ、ちょっとしたブームを起こしている。だが日本人の人気は “セックス・シンボル” と呼ばれたモンローより、“妖精” の方に軍配が上がり、女性たちはこぞってオードリーの特徴的なショートカットを真似するようになる。

赤狩り運動

ウイリアム・ワイラーはすでにハリウッドの大監督だったが、当時失意の中にいた。47年に始まった “赤狩り” と呼ばれる共産党シンパ排斥運動はハリウッドまで及び、リベラル色の強い映画人も追放処分を受ける。ワイラーは “良心派” と呼ばれる仲間とささやかな抵抗に出るが、赤狩り運動の強い嵐の前に沈黙をせざるを得なかった。

傷心のワイラーに持ちかけられたのが『ローマの休日』である。原作はダルトン・トランボ。赤狩りでハリウッドを追放されたため、偽名で仕事を続けていた脚本家だ。この話は、息抜きを必要としていたワイラーには格好の作品で、これまでコメディを撮っていなかった監督の食指を動かした。

またラブコメの体裁をとりながら人間の良心と信頼を描くというテーマ性も心惹かれるもので、ローマでのオールロケによりアメリカを離れられるのも好都合だった。映画化が決まり主役の新聞記者ジョーと同僚のカメラマン・アービングには、“良心派” の仲間だったグレゴリー・ペックとエディ・アルバートの配役が決まる。

運命のカメラテスト

ヒロイン役にはエリザベス・テイラーやジーン・シモンズなどの有名スターの名前があがるが、ワイラーはヨーロッパでイメージ通りの新人を探すことにした。だが王女の品格と明るさを持ち合わせた候補は現われず、ヒロイン探しは難航する。その時、スカウトマンの一人が見つけ出してきたのが、オードリー・ヘプバーンである。

ワイラーはスカウトマンの報告を聞き、スクリーンテストを受けさせるよう指示した。テストのために選ばれたのは、装飾を凝らしたベッドでパジャマ姿のアン王女が伸びをするシークエンスである。オードリーが緊張した面持ちでベッドの上の演技をこなすと、OKの声がかかりテストの終了が告げられた。

緊張の解けたオードリーは身体にシーツを被せると、いたずらっぽく微笑んでみせた。「嘘でしょう、まだカメラ廻っているみたい」。その無邪気な笑顔と可愛い仕草につられ、スタッフたちに笑い声が広がる。オードリーの素顔を撮るため、確かにカメラは廻り続けていたのだ。

そしてテストフィルムを見たワイラーは彼女にすっかり心を奪われ、ヒロイン役は決定したのである。

名シーンの数々

映画の冒頭でニュースフィルムにより、アン王女のヨーロッパ各国への訪問が紹介される。そして場面はニュース映像からそのまま大使館のレセプションシーンに移り、アン王女と賓客との長い謁見シーンが描かれる。一見おすまし顔のプリンセスだが、ドレスの中では脱いだ靴が履けなくなり足を痺れさせている。

この短い時間の中で、物語の背景や王族としての窮屈さと王女のお転婆な一面が描かれ、観客を引き込むという手際の良さが素晴らしい。レセプションが終わり、ベッドで夕食をとるアン王女だが、分刻みのスケジュールと決まり切ったルーティーンに、ついに感情を爆発させてしまう。

こうして鎮静剤を飲まされ一旦は落ち着くが、意を決し王女は大使館を抜け出す。だがスペイン広場を歩いている途中、薬の副作用で意識が薄れベンチに寝転がってしまう。そこに通りがかったのが、新聞記者のジョーだ。ここまでワイラーの細やかな演出と巧みな語り口に観客は引き込まれ、プリンセスのお忍び物語に夢中になってしまうのだ。

ジョーは正体不明の身を案じ自分のアパートに彼女を保護する。だが彼は酩酊状態の若い女性に邪(よこしま)な思いを持つこともなく、慇懃無礼な扱いをする。まさに誠実男グレゴリー・ペックと、妖精オードリー・ヘップバーンならではのファンタジーだ。

このあとローマの名所巡りを交えながら、休日を謳歌するアンの姿がユーモラスに描かれる。男物のパジャマ・美容院でのカット・心使いの花一輪・スペイン階段で味わうジェラート・街を駆け抜けるベスパ。アンにとって何もかもが新鮮で、その楽しさが見る者にも伝わってくる。ショートカットで微笑むオードリーのチャーミングさに、もう観客の心も鷲づかみだ。

スペイン階段でアンとジョーが会話をするシーンでは、背景に映る教会の時計の針が進んだり戻ったりしている。これは2分余りのシーンを長時間で撮影し、ぶつ切りのOKカットを編集で繋げていると言う証拠だ。ファンの間では有名なシーンだが、現在のデジタルリマスター版では修正が施されている。

しかし一番有名なシーンは、オードリーに内緒でワイラーとペックが企てた真実の口でのアドリブ演技だろう。このシーン、ペックのアドリブに驚いたオードリーが素直なリアクションを見せるが、王女にしては反応がありのまま過ぎて不自然だ。だが、オードリーの素の魅力を引き出したという点では100点満点の名シーンである。

『ローマの休日』の品格と余韻

二人は自然と惹かれ合うが、短い休日が終わり別れの時が来る。アンには王女としての使命があり、ジョーには元の場所に送り返す責任があるのだ。こうしてお伽世界の物語は、一転して大人のほろ苦い現実に変わる。

ラスト、アン王女は記者会見でジョーの正体を知り少し動揺するが、毅然たる振る舞いを崩さない。二人は多くを語らずとも理解し合い、裏切りの時代に信頼と愛情の物語が描かれる。そして記者会見が終わり、ジョーは足音を残し一人その場を立ち去っていく。まさにこの品格と深い余韻が、『ローマの休日』を名作たらしめている理由である。

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