黒澤明「用心棒」「椿三十郎」

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58年封切りの活劇大作『隠し砦の三悪人』は撮影日数と予算が大幅にオーバー、これを問題視した東宝は黒澤明を独立させ、契約という形で彼に映画を撮らせることにする。61年の『用心棒』は、黒澤監督が社会派サスペンス『悪い奴らはよく眠る』に続いて作った独立プロダクション第二弾となる作品で、様式を排しリアルさを目指した時代劇映画だ。

桑畑三十郎を名乗る正体不明の素浪人に三船敏郎、ピストル使いの卯之助を仲代達矢が演じている。映画の冒頭、さっそく肩を揺すりながら素浪人の三船が登場。アウトロー然とした風体ながら、その格好良さに観客の期待が高まる。

撮影は『羅生門』以来の宮川一夫。この映画では黒澤組ならではのマルチカメラ方式で、望遠など複数のレンズを組み合わせ撮影している。そしてオールピントのパンフォーカス技法を駆使、奥行きのある画面と迫力のある濃密な映像を作り出した。そのために使われるフィルムや照明器具の量は、半端なものでは終わらない。

舞台はやくざの2大勢力がいがみ合う、空っ風吹く上州馬目の宿場町。『用心棒』ではオープンセットに予算の3割を掛け、ワイドスクリーン対応の道幅が広い宿場町を出現させる。本物らしさを求める黒澤に美術班は消防署へ散水車の出動を依頼、一週間を掛け江戸時代を再現した建物に雨を降らせ続けた。

こうして屋根には自然に苔が生え、軒下には古い建物のような雨だれの跡が出来る。さらに羽目板や柱をガスバーナーで炙って焦し、靴墨をつけ泥を刷り込む汚しの技法でリアルな生活感を滲ましている。セットに大きな作りを好む黒澤、壊され中身が溢れ出す酒樽群も有り得ないくらいでかい。

三船演じる三十郎のイメージは野良犬。颯爽と町を闊歩しながら情に厚い面もあり、いざとなれば鋭い歯で噛み付く。対するは、仲代演じる蛇の如く冷血で狡猾なイメージの卯之助。首にマフラーを巻き、懐にピストルを忍ばせて練り歩く姿は不気味な雰囲気たっぷりだ。

卯之助のピストルは1850年代に製造されたスミス&ウェッソンのリボルバー、坂本龍馬も所持していたという当時最先端の武器だ。映画で使われたピストルは本物で、あまり写さないようにと指示が出ていたようだ。もちろん空砲で撃っているのだが、反動はもの凄かったらしい。

物語はダシール・ハメットの『血の収穫』からアイデアを拝借し、アクションとユーモアを織り交ぜながら、やくざの一掃を企てる三十郎の活躍が描かれる。三船のリアルな殺陣のスピードと迫力は凄まじく、最後は息継ぎもせず一気に10人の敵を切り伏せる。明快でテンポの良いストーリー、役者の迫力、濃厚な映像、円熟味を増した演出などが上手く噛み合い、黒澤全盛期に作られた最高の活劇となっている。

『用心棒』の大ヒットを受け、東宝は黒澤監督に続編の制作を要請する。渋々その要請を受けた黒澤は、他の監督に小林桂樹主演で撮らせるつもりだった山本周五郎原作『日々平安』の脚本を、三船演じる三十郎の物語に作り替えた。それが62年の『椿三十郎』である。

三船のライバル役には前作に続いて仲代。そして若侍役として加山雄三と田中邦衛らが出演している。物語はお家騒動に揺れる未熟で危なっかしい若者たちを助け、三十郎が乗り出して事件を解決するというストーリーだ。城代家老の奥方を演じる入江たか子と、コメディリリーフを務める小林桂樹の存在により、前作から更にユーモアを増した作りになっている。

映画終盤、三十郎が合図として小川に流そうとした赤い椿は、実際は花を黒く塗ることで色を強調している。モノクロ画面で椿だけ赤くしようと試行錯誤するも技術的に難しく断念、しかし次作『天国と地獄』で煙突の煙をパートカラーにし実現させている。

『椿三十郎』は前作に続き好評を博したが、仲代演じた敵役の室戸半兵衛が『用心棒』の卯之助に比べ面白味に欠ける部分が物足りない。半兵衛は仲代の存在感で切れ者とは分かるが、見た目普通の侍で造形の面白さに乏しい。しかも腕前を披露するようなシーンもなく、雰囲気だけの使い手になっている。まあ三船の凄さの前に、仲代が頑張っても殺陣に見劣りがするからだろう。

最後の決闘シーンに備え、仲代は1ヶ月間居合いの練習をする。そして本番は向かい合った二人に緊迫の間が続き、互いが刀を抜くと一瞬で勝負が決まった。この場面の詳細を知らされていなかった加山ら若侍たちは吃驚仰天、演技を忘れ本当に固まってしまったそうだ。

黒澤の作り出したリアルな殺陣は、東映時代劇にも影響を与えている。そして63年に作られたのが、工藤栄一監督の『十三人の刺客』だ。この映画ではそれまで歌舞伎の様式的な殺陣で見せていた東映がリアルな肉弾戦を展開、集団抗争劇の迫力を作り上げている。

07年には、森田芳光監督がオリジナルの脚本をそのまま使って『椿三十郎』を、カラー映画として織田裕二主演でリメイク。恐らく森田監督は腕試しのつもりか、黒澤気分を味わいたかったのだろうが、黒澤・三船と比べられる時点でもう負け戦である。

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