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デヴィッド・フィンチャー「ソーシャル・ネットワーク」

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現代人の孤独

10年公開の『ソーシャル・ネットワーク』は、先鋭的な映像で知られる鬼才デヴィッド・フィンチャー監督が、 IT界の寵児を取り上げて現代人の孤独を描いた作品だ。

主役の Facebook創設者、マーク・ザッカーバーグにジェシー・アイゼンバーク。Facebookを共同で立ち上げ、後に切り捨てられる友人役に『アメイジング・スパイダーマン』シリーズなどのアンドリュー・ガーフィールド。

フィンチャーはこれまで『セブン』『ファイト・クラブ』『ゲーム』などの作品で、アナーキーな世界における人間の実存を描いてきた。この『ソーシャル・ネットワーク』では、IT社会を象徴するような利己的な現代の若者が登場するが、フィンチャーは善悪だけでは判断できない人間のあり方を問うている。

非情の経営者

映画のザッカーバーグは優秀な頭脳と経営手腕を持ちながら、コミュニケーション能力には欠けた未熟な人物だ。ザッカーバーグを演じるアイゼンバークは長ゼリフをまくし立て、冒頭からその独善的な性格を露わにする。

バーに連れてこられた女の子はその無神経な物言いに「彼女ができないのは、自分がオタクだからだと思ってるでしょ。でもそうじゃない、アンタが最低の奴だからよ!」とキレて帰ってしまう。

主演を務めたアイゼンバークは、秀才だが鼻持ちならない神経質な男を好演している。いや演じているというより、実は演技することを抑えている。フィンチャーはザッカーバーグを感情の乏しい人間として描いており、このシーンに99テイクを費やして俳優に演技しない役作りをさせたようだ。

ザッカーバーグは女の子にキレられたことを根に持ち、PCに彼女の誹謗中傷を書き込む。ザッカーバーグは自分の非を認めようとしないが、実は内面にコンプレックスを抱えた男なのだ。

そしてこの出来事をきっかけにFacebookを立ち上げることになる。だが “トリックスター” ジョン・パーカーの登場で意見が対立、ザッカーバーグは共同経営者の親友を冷たく切り捨ててしまう。

ザッカーバーグの描き方

ザッカーバーグは切り捨てた親友から訴えられ、訴訟を担当した女性弁護士から示談を勧められる。この女性弁護士は観客の気持ちを代弁してくれる存在で、ザッカーバーグに「あなたが悪い人でないことは分かってる、そう振る舞っているだけ」と忠告をする。

いままで他人の意見など聞き入れることのなかったザッカーバーグだが、ここで初めて自己を見つめ直すことになる。未熟だった若者が成功者となり、深い孤独と後ろめたさを味わって少しは成長したのだ。

そうしてザッカーバーグは、かつて自分から逃げていった女の子がFacebookに登録している事を知ると、“友達申請”をする。この映画の主役は嫌な奴だが、寂しく可哀相な人間でもある。

『ソーシャル・ネットワーク』はこうした未熟な若者の成長を語っている。それとSNSが、現代人のコミュニケーション不足を補完する道具として描かれているのも興味深い。

だが、実在のザッカーバーグが映画通りの人間だという訳ではない。ザッカーバーグ本人はあれほど無表情な人間ではなく、笑いもするしちゃんと友人もいるようだ。映画はあくまで、よく作られたフィクションなのだ。

脚本を務めたアーロン・ソーキンによると、この映画はジョン・ヒューズが撮った『市民ケーン』だそうだ。ジョン・ヒューズは『ブレックファスト・クラブ』などで知られる青春映画の名手。『市民ケーン』は新聞王ハーストをモデルとし、成り上がり富豪の孤独を描き出したオーソン・ウェルズの古典的名作だ。

こういった背景も知っておくと、より分かりやすく楽しめると思う。だが予備知識なしで見ても、スリリングなディスカッション劇と緊張感で面白い映画となっていると思う。

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