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ジョン・フォード監督「荒野の決闘」

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詩情豊かな西部劇の傑作

46年『荒野の決闘』は、名匠ジョン・フォードが実際に起きた銃撃戦、「OKコラルの決闘」をモチーフに作った西部劇の傑作。物語はワイアット・アープとドク・というホリディという実在の人物の伝記を素材として作られている。晩年のワイアット・アープはジョン・フォードと交友を持ち、西部劇にも影響を与えたと言われている。

邦題はかなり勇ましいが、原題は『My Darling Clementine(いとしのクレメンタイン)』と詩的。フォード監督は事実に重きを置かず、クレメンタインという架空の娘を中心に据えて、ほのかな純愛を詩情豊かに描いた。この映画は活劇中心だった西部劇に日常的な生活感と叙情性を持ち込み、フォード監督の試みは革命的とも評価された。

弟3人とともに牛の群れを運んでいたワイアット・アープ(ヘンリー・フォンダ)は、途中で寄った町トゥームストーンで末弟を殺されたいきさつもあり、町の人たちの頼みを聞き入れて保安官となる。やがて弟殺しの犯人はクラントン一家と判明し、結核持ちの賭博師ドグ・ホリディ(ヴィクター・マチュア)の助勢を得て、OK牧場の決闘へとなだれ込んでいく。

芸術的な構図と人物像の深さ

フォード監督はモニュメントバレーの見える砂漠にトゥームストーンの町を造り、悠然たる自然を背景に西部に生きる人々の姿を描いている。フォードは独特な地形の岩山を画面の奥に置き、白黒のコントラストが鮮やかな深みのある構図がまさに芸術的だ。

主人公のアープ役を務めるフォンダはその確かな演技力で、かつての西部劇には見られなかった人間味に溢れる保安官像を生み出した。その象徴的なシーンが椅子に腰掛け、長い脚を柱にもたれかかる姿。シャイだが強い信念を持つ男、ワイアット・アープ。フォンダの演技とフォードのさりげない演出が、この人物に深みと多様性を与えている。

ヘンリー・フォンダはジョン・ウェインと並ぶジョン・フォード映画の顔だったが、55年『ミスタア・ロバーツ』の撮影中に、意見の相違で喧嘩別れしてしまったのは残念だ。

身を持ち崩し、外科医からアウトローのギャンブラーに転落したドグ・ホリディを追い、元婚約者のクレメンタイン(キャシー・ダウンズ)がトゥームストーンに姿を現す。ここから純真なクレメンタインと刹那的に生きるホリディ、そして彼の情婦チワワと、クレメンタインにほのかな思いを寄せるアープたちの人間模様が描かれる。

この辺りの登場人物の造形は、純粋な活劇として作られた57年の『OK牧場の決闘』(監督ジョン・スタジュース。ワープにバート・ランカスター、ホリディにカークダグラス)と見比べても面白い。

美しく印象的なラスト

また、酒場で騒ぎダンスを踊るトゥームストーンの人々も、牧歌的でノスタルジックだ。派手な撃ち合いをイメージしがちな西部劇だが、本来の開拓者の姿を見せてくれる日常的な風景となっている。最後の決闘も淡々と進行し、そんな争いも風景の一部として描かれる。

決闘中にドグは死んでしまうが、クレメンタインは教師としてトゥームストーンの町に残ることになる。アープは彼女の頬にキスをし、握手を交わすと馬に乗り「いい名前ですね、クレメンタインって」と精一杯の気持ちを表して、町を去って行く。

静かで端整、モニュメントバレーの絵画的風景も相まって、情緒溢れる美しく印象的なラストだ。

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