ヒッチコック「知りすぎていた男」

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55年の『知りすぎていた男』は、とある事から政治家の暗殺計画を知った男が、家族とともに事件の渦中に放り込まれるという、ヒッチコック定番の巻き込まれ型サスペンス。また、イギリス時代の34年に制作した『暗殺者の家』をアメリカ仕様に作り替えた、ヒッチコック唯一のセルフリメイク作品でもある。(原題は同じ『The Men Who Knew Too Much』)

事件に巻き込まれ、息子を誘拐されてしまう男ベン・マッケンナにジェームズ・スチュアート、その妻ジョーをドリス・デイが演じている。人気歌手でもあるドリス・デイが劇中で歌う『ケ・セラ・セラ』が印象的で、アカデミー歌曲賞に輝いた。

また『ケ・セラ・セラ』は世界中で大ヒットを記録、日本でも雪村いずみやペギー葉山が日本語歌詞で歌っている。


冒頭はオーケストラ演奏によるオープニング。やがてクレジットタイトルが消えると、シンバル奏者が立ち上がり、これを派手に打ち鳴らすという前振り。そして場面は、事件に巻き込まれるマッケンナ家族に移り、再びシンバルが鳴らされる終盤のサスペンスへと向かっていく。

この辺りのストーリーは『暗殺者の家』とほぼ同じ。違うのは、事件の発端となる舞台(スイス→モロッコ)が変わっていること、誘拐されるのが娘から息子になっていること、最後の暗殺組織と警察による銃撃戦がなくなっている部分くらいだ。

ヒッチコックは『暗殺者の家』を「才能のあるアマチュアがつくった映画」と自ら評したが、『知りすぎた男』については「プロがつくった映画」と自負する言葉を述べている。『知りすぎた男』ではいつものユーモアも少め、サスペンスを盛り上げることに腐心し、オリジナルを越える面白さの作品となっている。

クライマックスは、アルバート・ホールで催されるオーケストラ演奏を鑑賞する、某国首相暗殺計画のシーン。シンバルが打ち鳴らされる瞬間を狙い、標的に銃を向ける暗殺者。それを知らない某国首相と、譜面・指揮者・楽器演奏者へのアップ。悪い予感で、不安に駆られる母親のジョー。そして暗殺を阻止しようとするが、警備の警官に邪魔されるベン。

これらのカットバックを巧みに繋ぎ、緊張感を高めていくヒッチコック手法が冴え渡る。

またこの映画は家族の物語であり、子供を人質に取られた夫婦の心理的葛藤や苦悩といった、人間のリアルな感情が観客を物語に引き込む。誠実な人柄のジェームズ・スチュアートと、スター然としていないドリス・デイの親しみやすさも、息子を思う夫婦の役にピッタリ。

また劇中で歌われる『ケ・セラ・セラ』がまさに効果的。サスペンスの伏線としても使われるが、母親の愛情が聴く者の胸に伝わり、観客の心に訴えかけてくる。この名曲があってこそ、『知りすぎた男』がサスペンスに留まらない豊かな映画となっているのだ。

緻密に練られた構成、畳み掛ける演出、無駄のないカメラワークなど、まさに全盛期にあったヒッチコックの技巧が堪能出来る作品だ。

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