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アルフレッド・ヒッチコックの「めまい」

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ヒッチコック最盛期の傑作

58年の『めまい』は、サンフランシスコの街を舞台に、男女の倒錯した愛情と悲劇を描くロマンス・ミステリー。事件のトラウマから高所恐怖症となった元刑事の探偵スコティに、ジェームズ・スチュアート。スコティを幻惑する妖艶な女性マデリン(ジュディ)を、キム・ノヴァクが演じている。

いつもは畳み掛けるような演出でサスペンスを盛り上げるヒッチコックだが、この映画はゆったりとしたリズムで物語が進み、情緒的な場面も至る所に折り込まれる。

それが本格サスペンスを期待していたファンの不評を呼んでしまったのか、公開時の反応は微妙、興行的にも今ひとつの結果に終わってしまった。

しかし年を経るにつれ『めまい』の評価は上昇、今ではヒッチコックの最高傑作と推す声もある程だ。また、カメラの後退移動と急激なズームアップを併用して撮った視覚効果の「めまいカット」も有名で、のちに多くの作品で模倣された。

スコッティの偏愛とジュディの葛藤

刑事を辞め探偵業を営むスコッティは大学時代の友人エルスターから、心を囚われ不審な動きを見せる彼の妻、マデリンの尾行調査を頼まれる。そして依頼を引き受けたスコッティはその夜、エルスター夫妻の立ち寄るレストランを訪れ、妻マデリンの姿を確認する。

そこでスコッティが目にしたのは、鮮やかなドレスを纏ったブロンドの官能的な美人。スコッティは妖しさを漂わすマデリンに、たちまち魅入られてしまう。探偵という職務を越え、ストーカーのようにマデリンの跡を付け廻るスコッティ。そしてゴールデン・ゲート・ブリッジの袂で自殺を図った彼女を救ったことから、二人は親密な関係になる。

逢瀬を重ねるスコッティとマデリン。ある日、誘われるように古い教会にたどり着くと、突然マデリンが取り乱して高い鐘楼の螺旋階段を駆け登り始めた。必死で追いかけるスコッティだが、高所恐怖症のため階段の途中でめまいを起こし、動けなくなってしまう。

悲鳴とともに、塔から落ちていくマデリン。彼女の死を止められなかったスコッティは、ショックのあまり鬱病となり、病院に収容されてしまった。退院後マデリンの幻影を追い求めて、街を彷徨うスコッティ。そんな時、髪の色は違うがマデリンそっくりのジュディという女性を発見。一度は人違いだと拒否されるが、彼女を食事に誘うことに成功した。

ヒッチコックはこの直後の場面で、ジュディとマデリンが同一人物だと種明かしをする。エルスターがスコッティを騙して、本当の妻が自殺したかのように見せかける、身代わりトリックだったのだ。しかしいつしかジュディは、スコッティを愛し始めていた。

原作では、小説のオチとなる身代わりトリックの種明かし。だがヒッチコックは途中でネタばらしすることで、スコッティの偏愛とジュディの葛藤を描き、幻影に苦しむ人間の姿を浮かび上がらせる。

キム・ノヴァクの艶やかな魅力

ジュディの髪をブロンドに染めさせ、グレーのスーツも買い与えて、マデリンの姿を再現させようとするスコッティ。ジュディはスコッティに本当の事を言えず、自分自身でありながら、彼が執着するマデリンの虚像に苦悩する。

この人間ドラマの厚みと豊かな感性、そしてキム・ノヴァクの艶やかな魅力が、後年『めまい』の評価を高めた要因だろう。

ふとしたことから、ジュディとマデリンが同一人物だと気づいたスコッティ。彼女を例の古い教会に連れ出し問い詰めて、最後は苦い結末を迎える。若き日に理想の異性像を追い求めるも、ある時現実を悟って味わう失望感と喪失感。そんな切ない経験をしてきた人たちの心を揺さぶる、情感溢れた傑作だ。

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