ジェームズ・キャメロン「アビス」

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「液体酸素」とは

89年に公開された映画『アビス』は、ジェームズ・キャメロンの監督・脚本による海洋SFファンタジー。93年には、新たなシーンを追加し再編集した完全版が発表されている。

この完全版には、公開当時の技術では作れなかったCGによる大津波のシーンが収められるなど、オリジナルより約30分長い171分の長尺作品となった。ちなみにオリジナル版ソフトはすでに廃盤となっており、現在観ることが出来るのは完全版だけだ。

10代で海洋に夢中になったキャメロンは、大学の講義で「液体酸素」の実験に出会い、おおいに興味を持つ。「液体酸素」の実験とは、酸素を含む液体を肺呼吸することで、気圧の変化に人体を適応させ易くさせる、という理論を試みるものだった。

そしてこの実験にインスピレーションを得た若き日のキャメロンは、短編小説『深淵(The Abyss )』を一気に書きあげた。

困難を極めた水中撮影

この短編にストーリーを肉付けして製作したのが、映画となった『アビス』。映画にはマウスによる「液体酸素」の実験シーンが出てくるが、これは実際に行なったもの。撮影では数匹のマウスが「液体酸素」に浸けられたが、全て生き返ったそうだ。

たがエド・ハリスの装着する潜水ヘルメットに注入されるのは、ただの水。特撮と演技で、「液体酸素」に見えるようにしてあるらしい。だが自分が最初に『アビス』を観たときにはフェイクと分からず、本当にこの技術が使われているのかと思ったほどよく出来ている。

映画の殆どの舞台となるのは、海底と海底に沈む石油探査基地。建設途中で中止となった原発の格納容器を利用してつくった直径73mの水槽タンクに、石油探査基地の実物大セットを設置して水中撮影が行なわれた。

俳優たちが被るのは、映画的演出を考えてつくられた特殊な潜水ヘルメット。そして撮影に当たって水中用の特別機材を考案、最新テクノロジーを駆使して映画製作が進められた。だが1日平均18時間に及ぶ水中撮影は困難を極め、エド・ハリスやキャメロン監督も酸欠で溺れかかるという危険な目に遭ったようだ。

ぼやけてしまったテーマ

映画プロットの大部分を構成するのは、海底及び海底油田探査基地を舞台とした、大がかりな海洋アドベンチャー。キャメロン監督のリアルを追求した映像と、ディティールに拘った舞台装置とメカデザイン、緩急を心得たアクション演出で楽しませてくれる。

登場人物はステレオタイプながら、エド・ハリスとマストラントニオが演じる二人の関係が丁寧に描かれており、夫婦の愛情というテーマが観客の胸を打つ。しかし映画のバランスを崩しているのが、終盤に大きな展開を見せる地球外生命体との遭遇シーン。

海中で妖しく輝く地球外生命体は、まるでクリオネか妖精のようなファンタジー設定。彼らがとてつもない妖力(テクノロジー?)を使い、地球存亡の危機を救う結末があまりにも安易。また“地球を滅ぼす核兵器の脅威”という平和を訴えるメッセージも、メルヘンな終わり方でぼんやりしてしまった。

撮影技術を駆使したリアルなアクションと、突飛に現れるファンタジー要素。この食い合わせの悪さが作品の出来を微妙なものにさせている。高額な制作費をかけた割に、結局映画は当たらずキャメロンにとって失敗作になってしまった。

地球外生命体のくだりを全てカットした方が、もっと評価される作品になったと思う。しかし、異生物やアンドロイド(或いは異なった世界)との遭遇と邂逅を描くのが彼の作品テーマだから、ここはしょうがないところだろう。

だが『アビス』で使われたCG技術は、次作『ターミネーター2』に繋がり、驚異の映像が話題を呼んで映画は大ヒットした。そのCD技術は3D映画『アバター』において、一つの頂点に達する。また大がかりな水中撮影の経験は、歴史的ヒットを記録した『タイタニック』にも生かされることになる。

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