映画「十二人の怒れる男」




映画『十二人の怒れる男』は、12人の陪審員が1人の少年の有罪か無罪かをめぐって、白熱の議論をおこなうディスカッション法廷劇。54年にCBSで放送された1時間枠のワンセット・ドラマ(演出、フランクリン・J・シャフナー)が反響を呼び、ドラマに感銘を受けたヘンリー・フォンダが製作と主演を務め、57年に96分の映画版がつくられた。

舞台はニューヨークの裁判所。ラストシーンを除き、物語は陪審員室でかわされる議論のみで描かれる。また登場人物も、冒頭のシーン以外はほとんど陪審員の12名だけ、時間も現実と一致させるアルタイム進行となっている。

このように条件が限定されたドラマの演出にあたり、視覚的単調を避けるためカメラ・アングルの多様化が図られている。この映画のカット数は全部で397あるが、同じ位置・同じアングルで撮影したショットはひとつも無いらしい。そのため陪審員室のセットの壁は、どこでも取り外し出来るようにしてあったそうだ。

監督は、これが映画デビュー作となった、社会派の巨匠シドニー・ルメット。公開時ヒットはしなかったものの、シンプルながら力強いドラマ性と、一部の隙もなく構成された密室劇の緊迫感が評価を受け、57年のベルリン国際映画祭では金獅子賞を獲得。同年度のアカデミー賞では、作品賞など主要3部門にノミネートされた。


映画に登場する陪審員には名前がつけられず、劇中では陪審員番号で呼ばれる。父親殺しの嫌疑がかけられた少年の審議を行なうため、陪審員室で話し合いを持つ12人の男たち。陪審員たちの間では最初から、状況証拠によって少年を有罪とするムードが支配的だった。

空気を察し、早く審議を終わらせようと挙手を求めた1番の陪審員長(マーティン・バルサム)。だがただ1人、審番号8番の建築家の男(ヘンリー・フォンダ)が無罪の立場を表明する。十分な審議も行なわれず、少年の罪が決まってしまうことへ疑問を抱き、話し合いを続けるため無罪を主張したのだ。

全員の意見一致が陪審制度のルール、早く審議を終わらせたい陪審員たちはフォンダの説得にかかる。しかし無罪の意見に9番の老人(ジョセフ・スィーニー)が賛同、審議は引き続き行なわれることになった。

フォンダは、状況証拠をひとつひとつ理論と実験で検証、有罪の根拠が次々と覆されていく。こうして無罪の意見に賛成する者が増えていき、ついには6対6の同票。そして有罪側の理論家・株式デイラーの4番(E・G・マーシャル)も、冷静な議論の応酬を経て納得、無罪の流れが決定的となっていく。

しかし最後まで有罪を主張したのが、頑固な会社経営者の3番(リー・J・コッブ)だった。冷静に対処しようとするフォンダに、理性を失いやすいコッブは反発を強めていく。この二人の対決は映画の劇的場面、新人ルメット監督はサスペンス演出にも腕の冴えを見せる。

多少ステレオタイプでも、偏見、怒り、正義、責任、無関心、日和りと、12人それぞれの個性が生き生きと描かれる。低予算でつくられた映画だが、渋い役者たちの熱演と見せ方の上手さで濃密な人間ドラマが繰広げられ、密室ものの傑作となった。

主人公を演じるフォンダも格好良すぎるきらいがあるが、まさに当時の時代が求める民主主義のヒーローだろう。多くの日本人がアメリカの陪審員制度の中身を知り、法廷劇のお手本となった映画でもある。

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