デヴィッド・リーン「旅情」

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大人の恋愛物語

55年公開の映画『旅情』は、アメリカのオールドミスが水の都ヴェネツィアで出逢いと別れを経験、そして短いアバンチュール終えるという、ロマンチックでほろ苦い大人の恋愛物語。

監督はイギリスの巨匠、デヴィッド・リーン。このあと、大自然と歴史のうねりを背景にした、スケールの大きな人間ドラマを手掛けるようになるリーン監督だが、すでに『旅情』の中で悠然たる風格の演出を見せている。

主演はハリウッドきっての名女優、キャサリン・ヘプバーン。その卓越した演技力と強い個性でトップの地位を保ち続けてきた大女優だが、44歳で出演したこの『旅情』がやはり彼女の代表作と言えるだろう。

オールドミスの旅先の出逢い

主人公は38歳で独身のアメリカ人女性ジェーン・ハドソン(キャサリン・ヘプバーン)。秘書の仕事をしている彼女は、念願のヨーロッパ旅行に出かけるため長期休暇をとり、ロンドンとパリを見て回ったあと、列車で最終目的地のヴェネツィアにたどり着く。

そしてサン・マルコ広場の野外カフェに腰掛け、16ミリカメラで風景を撮るジェーンだったが、後ろのテーブルで彼女を見つめる中年男(ロッサノ・ブラッツィ)の存在に気づき動揺する。その後、偶然の再会を経て、その中年男レナードに惹かれ始めるジェーン。だがあることで彼が妻子持ちであることを知る。

後ずさりしながら16ミリカメラを廻し、運河に落ちてしまうジェーン。お堅いハイミスと思えたジェーンも、こんなドジな面があると分かると親しみを覚えずにはいられない。

水の都ヴェネツィアの漂わす香りを、余すことなく伝える画づくりの上手さ。そして多くを語らずとも、的確に心理を捉える人間描写の巧みさ。『旅情』をよく出来た観光映画と評する声もあるが、それだけではない。

ヴェネツィアという街の奥行きがしっかり描かれているから、その中に登場する人物たちに実在感が出てくるのだ。また違う言い方をすれば、心に響くラブストーリーとドラマ性があってこそ、舞台となったヴェネチアが輝いて見えるのだと思う。さすがはリーン監督、風格の演出だ。

ヴェネツィアの花火

サン・マルコ広場のシーンであたふたするヘップバーンの演技も良いが、ブラッツィの目線で彼女の足首に寄っていくカットも上手い。このカットで、ブラッツィが旅する女性に性的関心を寄せる俗っぽい男ということが示され、この映画が単純なロマンチック・ストーリーではないと分かる。

レナードと待ち合わせの約束をしたジェーン。しかしレナードが遅くなると伝言を託し、ジェーンの許によこしたのは彼の息子。レナードに妻子があることを知ったジェーンは失望し、その場を去って行く。ホテルにジェーンを追いかけ、やって来たレナード。妻とは別居中だと告げ、「男女が愛し合うのは、理屈で考えてするものではない」と説得する。

でも息子を寄こすって無神経だし、告白の言葉もずいぶん都合がいいもんだ。デヴィッド・リーンは情熱的なイタリア男を、あえてシニカルに描いているのかもしれない。

レナードの愛を受け入れたジェーンは、彼とホテルのバルコニーでキスを交わす。ヴェネツィアの夜に打ち上がる花火は、愛の営みのメタファー。このあと様々な映画のラブシーンで使われることになった、情熱的でロマンチックな描写だ。

実は同年公開のヒッチコック監督『泥棒成金』でも、打ち上げ花火をバックにグレース・ケリーとケイリー・グラントがキスをするという有名なシーンがあるんだが、どっちが先なんだろう。

心に残るラストシーン

日常を忘れ、漁村で楽しい数日間を送る二人。だがジェーンが大切なくちなしの花を運河に落としたとき、レナードは水に入ってまでそれを拾おうとはしなかった。

ふと現実に戻り、今の幸せはひとときの夢だと悟ったジェーン。レナードとの関係を終わらせ、ヴェネツィアを離れるという判断を下す。

ラストは海を渡る出発点、サンタ・ルチア駅での別れ。ホームでくちなしの花を掲げるレナードに、ジェーンは走り出す列車から身を乗り出して手を振る。情感あふれながらも抑制が効いた、すがすがしいラストシーンだ。

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