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イングマル・ベルイマン「野いちご」

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イングマル・ベルイマン監督の代表作

57年製作のスウェーデン映画『野いちご』(日本公開62年)は、老医学者の一日を通して人間の孤独と屈辱を辛辣に描く、イングマル・ベルイマン監督の代表作。

主役の老医師イサクを演じるのは「スウェーデン映画の父」と呼ばれた、監督・俳優のヴィクトル・シェストレム。シェストレムは、シナリオの内容に不服を示したと言われるが、その堂々とたる存在感で苦悩を奥に秘めた老医師を淡々と演じている。

他にも、イングリッド・チューリン、ビビ・アンディション、グンナール・ビョルンストランド、マックス・フォン・シドーなど、スウェーデンを代表する俳優たちが出演している。

冒頭の5分近い悪夢のシーンはいっさいセリフがなく、粒子の粗い画面で得意な印象を与えるものになっているが、これが映画全体のテーマを象徴するものになっている。また、回想場面に現在の主人公自身が登場したり、悪夢と改装の境界が曖昧なまま提示されたりと、過去と現実と夢が錯綜する構成が特徴的である。

映画が公開されると世界で賞賛を浴び、ベルリン映画祭の金獅子賞やゴールデングローブ賞外国語映画賞など数多くの映画賞を受賞、世界的な映画作家としての名声を確立することになった。

老医師の苦悩と目覚め

79歳になる医者のイサクは、長年にわたる医学への貢献により名誉博士の称号を受けるため、ルンドで行われる授与式に出席することになった。そして息子(ビョルンストランド)の嫁マリアンネ(チューリン)も彼に同行することになり、自ら車を運転しルンドに向かうイサク。

その車中、イサクをエゴイストだと責めるマリアンネとの会話がきっかけで、彼は名声とは裏腹に空虚だった自分の過去を顧みることになる。またルンドに向かう道の途中、夢か現実か、昔の婚約者に似たヒッチハイカーの少女サーラ(アンディション)ら、様々な人と出会うイサク。彼らとの出会いが、煩悩から逃れられず苦悩から逃げていたイサクを徐々に変えていく。

ラスト、授与式を無事に終えたイサクはその夜、これまで向き合ってこなかった息子と家族のことについて誠実に話し合う。そして部屋で眠りにつくイサク。寝室の外では昼間出会った人たちが、彼に心からの祝福を送っていた。

生と死についての対話

老人の死への恐怖と青春の回想が混じり合い、この映画の不思議な趣で観客を魅了する。イサクが時間のない街をさまよい歩く悪夢のシーンは、映画を見る者の心に深く突き刺さる印象的な場面だ。そして森で野いちごを摘む少女の姿などに救われ、死に際に訪れるかもしれない幸福感を、我々は体験をすることになる。

ベルイマンはシュールレアリズムの方法を用いて、老人の内的世界の孤独、死の近づいていることへの不安をイメージとして描ききり、若い者にも年老いた者にも、生と死について深い対話を求める作品となっているのだ。

そしてベルイマンはこの映画で、ただ一老医師の救いを描くだけでなく、傷を負った人間のその痛みのままに追体験した者への、慟哭にも似た祈りを捧げているのである。

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