56年の『捜索者』はジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演による西部劇。コマンチ族に拉致された少女を、ジョン・ウェイン演じる伯父のイーサンが執念を燃やして7年も探し続けるという、西部劇としては異色のストーリーで知られる作品。
原作は54年に発表された同名の小説で、西部開拓時代に実在した人物、ジェームズ・パーカーが姪を探して8年間荒野を行き交ったという話をもとにつくられている。
南北戦争終結直後、南軍から除隊したイーサンの弟一家が、コマンチ族の襲撃に遭って虐殺され、生き残った姪(ナタリー・ウッド)も連れ去られてしまう。さらわれた姪の行方を求め、ひたすら敵を追うイーサン。頑固な男を演じるジョン・ウェインの姿は、後に作られるロード・ムービーの原点となったと言われている。
他に出演は、ワード・ボンド、ヴェラ・マイルズ、ジェフリー・ハンター、ハリー・ケリー・Jr.(西部劇黎明期のスター、ハリー・ケリーの息子)、ラナ・ウッド(ナタリー・ウッドの妹)、パトリック・ウェイン(ジョン・ウェインの息子)など。
大型西部劇として封切られた『捜索者』だが、公開時の評判はさほど芳しいものではなかった。特に派手な銃撃戦があるわけでもなく、また異常性格者とも思えるイーサンの人物像が、観客に違和感を与えてしまったからだ。
映画に登場するイーサンは、インディアンの墓を暴き死人の両目を撃つ(目のない死人は荒野をさまようしかないから)。そして族長スカーの頭皮を剥ぎ、コマンチと同化した実の姪を殺そうとする。
こうした主人公の描き方は、評論家の間でも賛否が分かれた。だがインディアンによる白人の子供の誘拐はかつて頻繁に行われており、映画に描かれたような人間も実際いたようだ。
『捜索者』はその年のアカデミー賞の候補に一部門もノミネートされることがなく、間もなくすると人々の記憶から忘れ去られていった。ところが60年代に入ると、ゴダールなどヌーベル・バーグの作家たちによって再評価され、ジョン・フォードの傑作として認識されるようになったのである。
例えば、イギリスの映画専門誌が行った「アメリカ映画の名作」特集の投票では上位100位にも入らなかったのに、10年後の同じ企画では18位にランクインしているのだ。またアメリカ映画協会が08年に行った投票では西部劇部門の1位に輝き、12年の映画専門誌の投票ではオールジャンルでベスト7位に選出されている。( グレン・フランクル著、『捜索者』より )
派手な活劇がない代わりに、ジョン・フォード監督が描く複雑な人間像と深いテーマ性、そして2千5百キロもの距離を移動し映し出す自然の壮大な叙情詩が、作品を色褪せさせないものにしている。またイーサンという男の孤独な心情を、ジョン・ウェインが最良の演技で見せているのも高評価に繋がっているようだ。
こうして再評価されるようになった『捜索者』は、スコセッシ、スピルバーグ、ルーカス、コッポラなど、70年代後半に現れたアメリカの監督たちにも影響を与え、熱烈に支持されるようになったのである。
特にスコセッシの『タクシードライバー』では、歪んだ正義感で行動を起こすトラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)と、少女の娼婦(ジョディ・フォスター)の姿にその影響が色濃く反映されている。
同じジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演の西部劇、『駅馬車』『黄色いリボン』『リオ・グランデの砦』などに比べると人気のなかった『捜索者』だが、近年の評価の上昇に合わせ日本でも語られるようになってきた。