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映画「第三の男」

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戦後フィルム・ノワールの傑作

49年製作のイギリス映画『第三の男』は、第二次大戦直後のウィーンを舞台としたフィルム・ノワール。光と影を効果的に使った構図の美しさ、サスペンスに戦争の影を負う人間の姿を折り込んだプロットの巧みさや、アントン・カラスのチターによる哀調を帯びたメロディ(ハリー・ライムのテーマ)で今でも評価の高い作品である。

製作はヨーロッパの名プロデューサー、アレクサンダー・ゴルダと、ハリウッドの大プロデューサー、デヴィッド・O・セルジニック。監督は『邪魔者を殺せ』(47年)『落ちた偶像』(48年)といったサスペンスで知られたキャロル・リード。『第三の男』は、リードがまさに一番油に乗り切っていた頃の作品と言える。

脚本を以来されたのは、スパイ小説の第一人者でもある作家のグレアム・グリーン。グリーンは映画のあと『第三の男』を小説化している。そして撮影を担当したロバート・クラスカーのカメラは、その光と影で白黒映画の頂点を極めたとされる。

出演者は、アメリカ人小説家のホリー・マーチンスにジョセフ・コットン、その親友で密売人のハリー・ライムにオーソン・ウェルズ。そしてハリーの恋人で女優のアンナ・シュミットをアリダ・ヴァリ、ハリーを追うイギリス軍人キャロウェイ少佐をトレバー・ハワードが演じている。

物語の発端

アメリカから親友ハリー・ライムを訪ねて、終戦後間もないオーストリアのウィーンにやってきた小説家ホリー・マーチンスはハリーが事故死したことを聞かされるが、事故時の状況に釈然としないものを感じる。現場にいた2人の他に、もう一人謎の人物が目撃されていたのだ。

その “第三の男” を探してハリーの元愛人アンナ などにハリーのことを聞いて回るうちに、ホリーはイギリス占領軍のキャロウェイ少佐からハリーは実は生きていて、戦争中に粗悪なペニシリンの闇取引で多くの死者を出したために地下に潜っているのだと聞かされる。

オーソン・ウェルズの存在感

男同士の友情に一人の女を介在させたミステリー仕立ての物語に加えて、出演者でもあるオーソン・ウェルズの監督作品から影響を受けたと言われる斜めの構図(プラター公園の大観覧車でハリーとホリーが出会う場面等)、コントラストの強い劇的な照明(ハリーがイギリス軍人に追い詰められる地下水道の場面)と光、影、靴音などの使い方が効果的だ。

またアントン・カラスの奏でるチターの音色は叙情とサスペンスを盛り上げ、映画音楽のスタンダード・ナンバーとなった。そしてアリダ・ヴァリの凜とした美しさ、ジョセフ・コットンの巧さ、オーソン・ウェルズの存在感が絶妙のアンサンブルをなし、サスペンスにとどまらない印象深さや厚みを作品に与えている。

特にウェルズ演じるハリー・ライムが密売人という小悪党にとどまらない魅力を持つのは、ウィーンの支配者である米・英・ソに敵視されるレジスタンス的な性質を持っているからだろう。またハリーの知的で皮肉っぽい人間像が、ぴったりウェルズの個性に嵌まっているのだ。

中央墓地の晩秋の並木道でアンナがホリーを一瞥することもなく、画面に向かってフレームアウトする場面は映画史上に残るラストシーンと言われる。

アンナがホリーを無視したのは、単に恋人のハリーが殺されたからという感情だけではない。ハリーとアンナは戦争の敗者の痛みを知る、男女を超えた同胞の関係。勝者のアメリカ人とは理解し合えないという、強い意志の表れである。

映画史に残る名セリフ

なお大観覧車の中でオーソン・ウェルズが口にする、「イタリアではボルジア家30年の圧政の下に、ミケランジェロ、ダヴィンチやルネッサンスを生んだ。スイスでは5百年の同胞愛と平和を保って何を生んだか。鳩時計だとさ」はセリフの中の名セリフと言われているが、これは彼のアイデアで付け加えられたそうだ。

最初ハリー・ライムの役はジェームス・メイソンが当てられていたが、リード監督の強い推薦でオーソン・ウェルズが演じることになり、結局そのことが『第三の男』を映画史に残る傑作にしたのだ。

『第三の男』は公開時から評判となり、49年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞、米アカデミー賞では撮影賞でオスカー像を獲得している。

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