オーソン・ウェルズ「市民ケーン」

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天才オーソン・ウェルズの映像革命

41年公開の『市民ケーン』は、当時新聞王と呼ばれたウイリアム・ランドルフ・ハースとをモデルに、栄華を極めながら最後は孤独の中に死んでゆく、男の虚像とその半生を描いた物語。ラジオドラマ『火星人襲来』で全米市民の度肝を抜いた天才、オーソン・ウェルズの映画処女作にして初主演作品。ウェルズはこの作品を、弱冠26歳という驚くべき若さで撮っている。

公開されるや話題となった『市民ケーン』だが、無断でモデルにされた新聞王ハースとの怒りを買い、妨害工作を受けて興行的に惨敗する。またアカデミー賞でも作品賞など9部門にノミネートされるが、圧力のせいかオリジナル脚本賞のみの受賞にとどまってしまった。

その独特な時間構成や舞台設計、さらにパン・フォーカス(全画面・全深度への焦点合わせ)、ロー・アングル、極端なクローズ・アップ、長回し、広角レンズの使用などの斬新なカメラワークは当時の人々を驚かせ、後の映画作品にも大きな影響を与えることになった。

映画界では素人同然だったウェルズの斬新なアイデアを、映像として実現させたのは撮影監督のグレッグ・トーランド。『嵐が丘』『怒りの葡萄』『我ら生涯の最良の年』など数多くの名作に携わった人物である。パン・フォーカスの技法は技術的困難からそれまであまり使われていなかったが、彼のおかげでその効果の素晴らしさが認識されるようになったのである。

他にも音楽のバーナード・ハーマン(ヒッチコック作品で有名)や、当時編集技術者だったロバート・ワイズ(『ウェスト・サイド物語』『砲艦サンパブロ』を監督)など、後に名を成した人たちもスタッフとしてこの作品に参加している。

新聞王の孤独

かつてのアメリカ新聞王で怪物と言われたチャールズ・フォスター・ケーン(ウェルズ)が「ローズバット(バラのつぼみ)」という謎の言葉を残して世を去った。この言葉に深い意味があると感じたニュース映画記者のトンプスン(ウィリアム・アランド)は、ケーンの生涯の真実を探ろうと調査に乗り出す、

財産相続を巡って母親と決別したケーン、25歳で大金を手にすると新聞社を買い取り、大衆受けを狙った記事で人気を博す。そして次々に強引な方法買収を繰り返し巨万の富を手にし、さらには大統領の姪と結婚、人民擁護の「主義宣言」を掲げ長選挙に立候補、権力への野望も露わにする。

しかし愛人とのスキャンダルを暴かれ選挙に敗北、さらに彼の横暴さから妻は去り、盟友のリーランド(ジョセフ・コットン)とも袂を分かつことになる。やがて恐慌の嵐の中で経営する新聞社も閉鎖、ケーンはフロリダにある大邸宅 “ザナドゥ” で孤独な余生を送り、最後はガラス玉を手にしたまま「ローズバット」と呟き死んでいく。

後世に与えた影響

「ローズバット」というキーワードについては、生き別れとなった母親への愛情の象徴とか、女性器を表す隠語でモデルとなったハーストへの当てつけ、といった説があるようだが、まあそこまで深い意味は感じないかな。単純に「物語を展開させる推進装置」という解釈でいいんじゃないだろうか。

つまりヒッチコック映画で言う「マクガフィン」と同じ仕掛け。あるいは物語に謎めいた部分を残すための雰囲気ワードと言った程度のものか。映画を観る分にはその程度の認識で充分だと思う。

当時の映画文法を無視するような革新的な作りは人々を驚かせたが、それが当たり前になった今では、その凄さが感じられなくなっているのも確か。この映画を撮ったのが26歳の若者であるという衝撃と、当時の新聞王をセンセーショナルに扱った内容が『市民ケーン』を伝説的作品にしているのだろう。

だが、富と名声を得た男の狂気と孤独、そして愛情への飢えというテーマは、『華麗なるギャツビー』(74年、ジャック・クレイトン監督)、『ソーシャル・ネットワーク』(10年、デヴィッド・フィンチャー監督)、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(12年、マーティン・スコセッシ監督)といった作品でも繰り返されており、その影響の大きさが伺える。

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