ピエロ・パオロ・パゾリーニ「奇跡の丘」

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66年公開の『奇跡の丘』は、イタリアの詩人で作家としても知られるピエロ・パオロ・パゾリーニ監督による、新約聖書をもとにしたイタリア・フランス合作の無神論者が創った前衛的な宗教映画。

原題『 IL VANGELO SECONDO MATTEO(マタイによる福音書)』の示すとおり、忠実に『マタイ伝』を再現し、キリストの誕生から復活までを無駄のない構図とカットで描き、生身の人間キリストとして描いている。

この映画はカトリック側からも評価され、国際カトリック映画事務局賞を受賞。ベネチア国際映画祭でも審査員特別賞を受賞しており、「神の詩人」パゾリーニ像が定着することになった作品だ。


最初この映画を前作・前々作(『アッカトーネ』『マンマ・ローマ』など)のようなネオレアリズモ劇として撮っていたパゾリーニは、撮影開始から3日後に全ての撮り直しを決める。これまでの叙情詩的な手法は、キリストを描くのにふさわしくないと考えたからである。

パゾリーニが取り直したこの作品に、有名な俳優は一人も出演していない。キリストを演じたのは、スペインの学生エンリケ・イラソキ。そして若い時代のマリアには女学生のマルゲリータ・カルーソ、年老いたマリアをパゾリーニ監督の母親スザンナ・パゾリーニが演じている。

そのほか使徒たちには、パゾリーニの友人と農夫や体操選手など素人役者を起用し、まるでドキュメンタリー映画のような仕上がりとなった。

舞台は南イタリアの荒涼とした土地、そして登場するのはそこに住む貧しい人々だ。キリストはハンセン病を治したり、水の上を歩いたりと、聖書にあるような奇跡を起こすが映画はそれを特別強調したりはしない。起こった出来事は、淡々と描かれるのみである。

映画に出てくるキリストは、まるで民衆運動の学生リーダーのよう。社会を動かすアジテーターが群衆を前に声を張り上げるように、かの救世主も演説調で語気強く民衆に訴える。キリストのセリフは『マタイ伝』に出てくる言葉のみ。格言のような言葉だけが呟きのように聞こえてくるが、物語はちゃんと繋がり進んでいく。

このドキュメンタリーのようなスタイルにより、目の前にキリストがいるような圧倒的な存在感が伝わってくる作品となった。音楽はバッハ、プロコフィエフ、黒人霊歌など世界中の宗教曲が使われ、厳かな雰囲気を醸し出している。

パゾリーニはこのあと、ソフォクレスのエディプス王の悲劇を描いた『アポロンの地獄』(67年)、ブルジョア家庭を舞台にした寓話的な作品『テレオマ』(68年)、オペラのプリマ、マリオ・カラスが鬼気迫る演技を見せた『王女メディア』(70年)など社会を挑発し、刺激するような映画を発表していくが理解されず、次第に孤立を深めていくようになる。

それからは「神の詩人」パゾリーニ像を一転させる「生の三部作(71~74年)」、『デカメロン』『カンタベリー物語』『アラビアン・ナイト』を発表、寛容なる生の賛美を行った。だが人間のあからさまな欲望を描き出した『ソドムの市』(75年)完成直後、パゾリーニはスキャンダラスな死を遂げ、魂の創作活動は突然の終わりを迎えることになる。

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