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映画「クレイマー、クレイマー」

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社会現象を起こした名作

ダスティン・ホフマン主演の『クレイマー、クレイマー』(79年)は、父子の愛情を通じて家族のあり方を問うヒューマンドラマ。『俺たちに明日はない』(67年)の脚本で知られるロバート・ベントンが、エイヴリー・コーマンの同名小説を元に脚本・監督した作品。

公開当時アメリカでは社会現象と言われるほど話題になり、80年のアカデミー作品賞と監督賞・脚本賞(ベントン)・主演男優賞(ホフマン)・助演女優賞(メリル・ストリープ)を受賞する。息子ビリーを演じたジャスティン・ヘンリーは、受賞はならなかったものの助演男優賞に史上最年少でノミネートされている。

18世紀の作曲家ヴィヴァルディによる、クラシック音楽の主題歌も印象的。映画は日本でも大ヒットし、04年には父と娘との関係に置き換えた翻案ドラマ『僕と彼女と彼女の生きる道』(草彅剛主演、関西テレビ制作)が作られている。

取り残された父と息子

ニューヨークのマジソン街で働くデッド・クレイマーは、一線の広告クリエーターとしてバリバリ仕事をこなす毎日を過ごしていた。だがある日突然、結婚8年目となる妻ジョアンナが、はっきりした理由も告げず息子ビリーを残し家を出ていってしまう。

それまで仕事ひと筋で家庭を顧みることのなかったテッド、戸惑いながらも5歳になる息子との二人生活が始まる。ビリーのため朝食のフレンチトーストをつくるテッドだが、最初は慣れない手つきで真っ黒焦げ。息子とのコミュニケーションもなかなかうまくいかない。

だが不器用ながらも父子は次第に理解し合い、互いの関係を深めていく。しかし息子に愛情を捧ぐ一方で、仕事への注意がおろそかになってしまったテッド。ついには大口の取引先を逃してしまったことから、会社をクビになってしまう。人間らしさを求めない、アメリカ・ビジネスエリートの現実だ。

そんなとき、離婚時にビリーの親権を放棄したはずのジョアンナが、その取り消しを求め提訴。クレイマー元夫婦はビリーの親権を巡り、裁判所で争うことになる。しかし双方の弁護士間で繰り広げられたのは、元夫婦のどちらがより子育てにふさわしくない人間であるかの、冷徹かつ不毛な法廷論理。ビリー自身の願いは、二の次だった。

アメリカの問題を捉えたメッセージ

資格を取って高収入の職も得たジョアンナに対し、無職となってしまったテッドは不利な状況。結局ビリーの親権はジョアンナに移ることになった。そしてビリーとのお別れの日、ようやく慣れた最後のフレンチトーストを作るテッド。二人の愛情と関係の積み重ねを、静かに描いた名場面である。

だが『クレイマー、クレイマー』が心に響くのは、この親子の物語が単に泣かせるからだけではない。仕事と家庭、家族の結びつき、女性の自立といった当時のアメリカの問題を鋭く捉え、強いメッセージとして観客の胸に迫ってくるからだ。

またクライマックス法廷劇の緊張からの、情感にあふれたラスト。こうしたドラマ作りの上手さも見逃せない。そして当時『ディア・ハンター』(78年)で注目され始めたばかりのメリル・ストリープの、自立する女性の強さ、母親としての後ろめたさ、元夫に対する微妙な感情の表し方が絶妙、作品に厚みを与えている。

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