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BS1「キューブリックが語るキューブリック」

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キューブリックに迫るドキュメンタリー

海外の優れたドキュメンタリー番組を紹介するBS1『BS世界のドキュメンタリー』で、鬼才スタンリー・キューブリック監督に迫った『キューブリックが語るキューブリック』( Kubrick by Kubrick 、フランス・ポーランド共同制作)が13日深夜に放送された。

キューブリックが99年に亡くなって(享年70歳)からはや20年。評論家ミシェル・シマンによる未公開インタビューを交え、彼の初期作品から遺作までを名シーンとともに振り返ろうという内容。またキューブリックの子供時代のフィルムや、自主制作の初長編劇作品も紹介され、資料的にもかなり貴重な番組だ。

キューブリックが23歳の時初めて撮った長編映画は、53年制作『恐怖と欲望』というタイトルの作品。敵の戦線に迷い込んだ4人の兵士の話で、ロサンゼルス郊外の山中で撮影を行ったらしい。公開が小規模となってしまったため採算はとれなかったが、批評家には好意的に迎えられ、キューブリックが映画ユニオンへの参加を認められることになった作品だ。

この作品を「お粗末でつまらないし思い上がった内容だったが、言い教訓にはなった」と振り返るキューブリック。確かに、あからさまなモンタージュなどの未熟な点も見受けられるが、映像の力強さにキューブリックらしさを感じる作品である。

映像作家の想い

インタビューの冒頭で「私が考える映像美学について、語る意味があるとは思わないしそれが可能だとも思わない」と牽制するキューブリック。彼は緻密な映像で見せる作家であってストーリーを語る作家ではないので、おそらく説明より感覚で受け取って欲しいということなのだろう。

このあと『突撃』『スパルタカス』、『博士の異常な愛情』、『2001年宇宙の旅』、『時計じかけのオレンジ』、『バリー・リンドン』、『シャイニング』、『フルメタル・ジャケット』、『アイズ ワイド シャット』といった作品が出演者やスタッフのインタビューとともに語られるが、やはりそこに浮かび上がってくるのは映像への強い思いである。

絵画的構図への拘り、革新的撮影技術への関心、リアルな再現性への執着、妥協のない制作姿勢、まさにそこで生まれた画の強さが、そのままキューブリックの紡ぐ物語の強さなのだ。多分キューブリック映画の本質は、人間を描くことより非人間性な部分を描くところにあると思う。

キューブリック作品の登場人物たち

その傾向が顕著になったのは、やはり『博士の異常な愛情』からだろう。この映画以降、キューブリックの映画より人間に対して突き放したような語り口になっている。そのため『バリー・リンドン』考察で言及されていたように、観客には共感、或いは理解できないような人物が主人公に据えられるようになる。

『2001年宇宙の旅』の感情表現が乏しいボーマン船長、又はコンピューターのHAL 9000、『時計じかけのオレンジ』の不良少年アレックス、『シャイニング』の奇妙なトランス一家、『フルメタル・ジャケット』の二面性を持つ海兵隊員デイビスといった登場人物は、観客に余計な感情移入をさせないような主人公たちだ。

そしてキューブリックの一連の作品を観て感じるのは、未知のものに対する不安と恐怖、そしてそれ以上の好奇心が創作意欲の元だということである。

姿の見えない異星人、無機質な管理社会、土地に棲みつく怨霊、非人間的な軍隊組織とベトコン、などがそれに当たるだろう。キューブリック自体がロジカルな人間なだけに、神秘的なものに惹きつけられてしまうのかも知れない。

キューブリックが目指すのは、映像による現実の再現と未来的なものの創造である。そのために彼はメロドラマ的なストーリーや、人間くさい物語といったものには興味がないのだろう。しかしそんなことより、謎をつくり出す人物だということが、キューブリックの最大の魅力だ。

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