チャールズ・チャップリン「街の灯」




1931年公開『街の灯』は、“喜劇王” と呼ばれたチャールズ・チャプリンが主演・監督・脚本・製作・編集を務めた、哀愁あふれる喜劇映画の傑作。前作『サーカス』から3年間もの紆余曲折を経て、チャップリンが完成させた作品である。

史上初のトーキー作品とされる『ジャズ・シンガー』(アル・ジョルスン主演)が27年に大ヒットして以降、サイレント映画はほとんどつくられなくなっていた。だがパントマイム表現にこだわったチャップリンはトーキー映画に背を向け、『街の灯』をサイレント作品としてつくった。

しかし『街の灯』は無声映画であるものの、完全なサイレントというわけではない。チャップリンが自作の音楽と音響を加えてのサウンド版となり、主題歌『ラ・ヴィオレテラ』が感傷をかきたてた。この作品以降、チャップリンは自らの作品の主題歌を全て作曲することになる。


バージニア・チェリル演じる盲目の娘と放浪紳士チャーリーとの切ない恋物語は、サーカスの事故で失明した道化師と病身で神経質なその娘の実話をもとに生まれたという。チャーリーは気ままに生きる街の浮浪者。その彼がふとしたきっかけで、盲目の花売り娘と知り合うのが物語の始まりだ。

チャーリーと花売り娘が出会う場面は本編では正味3分ほどだが、チャップリンはこのシーンに3百回以上のNGを出し、1年以上をかけて撮り直したらしい。なんとも凄さましい完全主義者ぶりだが、この時点ではまだ演出プランが固まっていなかったのかも知れない。ワンマン体制だからこそ出来た、コストを気にしない贅沢な作品づくりである。

そしてその花売り娘に恋心を抱いたチャーリーは、祖母と二人で暮らす彼女の生活を助けようと、掃除夫として働いたりにわかボクサーになったりと大奮闘。だが思うように金はできない。

素晴らしいのは抱腹絶倒のボクシングシーン。賞金を稼ごうとリングに上がったチャーリーが、レフェリーの背中に隠れながら、相手にパンチを食らわすシーンのオカシさはまさに絶品。至極のパントマイム芸で観客を楽しませてきたチャップリンだが、『街の灯』のボクシングシーンはその一つの頂点だろう。

ある夜、チャーリーは酔って自殺しようとしている男を(ハリー・マイヤーズ)を助け、富豪だった彼と仲良くなる。シラフになると酔ったときの記憶を無くすという富豪に振り回されながら、チャーりは彼に大金を援助してもらい、花売り娘にそのお金を手渡すと彼女の前から立ち去る。

結局富豪に泥棒扱いされ、チャーリーは牢獄に繋がれるハメに。出所した彼は街角で花売り娘と再会するが、手術して視力が回復した彼女は目の前の浮浪者が恩人だとは気づかず、チャーリーに小銭を恵もうとして彼の手に触れる。

その瞬間手のぬくもりに、あのときの恩人だと初めて気がついた花売り娘。イノセントに微笑むチャーリーと、戸惑いながらも再会を喜ぶ彼女。「you ?(あなたでしたの)」という一枚の字幕が、トーキーでは味わえない感動を呼び起こす。これこそ純粋な映像の力だ。

社会・文明批判的な『黄金狂時代』(28年)『モダン・タイムス』(36年)や、イデオロギー色の強い『独裁者』(40年)『殺人狂時代』(47年)に対し、風刺、ロマンス、笑い、ペーソス、といった要素が絶妙なバランスをなしている『街の灯』。チャップリンの最高傑作と言って差し支えないだろう。

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