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小林正樹監督「人間の条件」

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未曾有の長編作品

1959年(昭和34年)公開の『人間の条件』は、戦後150万部のベストセラーとなった五味川純平の同名小説を映画化した反戦大作。

にんじんくらぶ(独立系映画プロダクション)社長の若槻繁が、小林正樹監督とともに前後3年間を費やし、全3作(6部構成)9時間31分にも及ぶ未曾有の長編作品を作り上げた。

物語の舞台は中国だが、当時は中華人民共和国との国交がなかったため、撮影は主に北海道と九州で行われている。

それでも重厚で緊迫感に満ちた小林演出と、宮島義勇のカメラによる雄渾で骨太のタッチは、充分に大陸の広がりを感じさせている。

ストーリー

ストーリーは、誠実で進歩的な満州鉄道社員・梶(仲代達矢)と、その妻(新珠三千代)との心の交流を通じて、日本の満州侵略の歴史を日常の生活から描いていく。

時代は戦時中の昭和18年。第1作(1部・2部)では鉱山を背景に、満州人に対す虐待や酷使の様子が描かれ、主人公の梶は日本人幹部らの不正を暴いて革新を試みた。

第2作(2部・3部)では、梶が憲兵の差し金で現地軍に招集され、北満州の前線へ追いやられる。そこで軍隊という非人道組織の横暴に遭いながら、梶は果敢な反抗を見せる。

第3作(5部・6部)では、シベリアの国境に近い戦地で日本軍は敗走。捕虜となった梶はソ連の収容所で過酷な日々を暮らし、仲間たちが犠牲になっていく中で絶望、自ら死を選ぶ。

反戦映画の傑作

まさに己を貫く一人の男の苛烈な生き様と、人間的葛藤を圧倒的なドラマツルギーや緊迫感で描いた反戦映画の傑作。ヴェネツィア国際映画祭では銀賞を受賞している。

そして撮影時20代後半の仲代達矢は、鬼気迫る演技で観客を惹きつけ、これが彼の出世作となった。

共演は淡島千景、有馬稲子、佐田啓二、山村聰、田中邦衛、川津祐介のほか、当時の有名俳優や若手俳優が多く出演している。

小林正樹監督はこのあと、仲代達矢主演の『切腹』や、新珠三千代主演の『怪談』といった名作を発表。国際的にも高く評価され、黒澤明、木下惠介、市川崑と並ぶ戦後の巨匠と目されるようになった。

“にんじんくらぶ” について

『人間の条件』のプロデューサー若槻繁は、戦時中に『改造社』の編集者をしていた良心主義者。横浜事件(戦時中の言論弾圧事件)に連座し、拷問を受けたこともあるという。

戦後、親戚筋にあたる岸恵子のマネージャーを引き受けたことから映画界に関わりを持ち、「松竹三人娘」といわれた岸恵子、有馬稲子、久我美子のために マネジメント事務所 “にんじんくらぶ” を設立。

そのうち映画つくりにも興味を覚えるようになり、やがて組織を拡大。マネジメント業務のほか、映画の企画や製作にも乗り出すようになる。

一時は人気俳優20人以上を擁する隆盛期を迎えるが、素人プロデューサーの域を超えられずに1作ごとに赤字を重ねてしまう。

そして小林監督の『怪談』に巨額の製作費がかかったことで、ついに大きな負債を抱えて倒産の憂き目に遭ってしまった。

それでも若槻はその後「にんじんプロダクション」を立ち上げ、深作欣二監督、千葉真一主演のアクション映画『カミカゼ野郎 真昼の決斗』(66年)を製作したりしている。

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