約1ヶ月に及ぶ激戦が繰り広げられたFIFAワールドカップ・カタール大会2022は、アルゼンチン3度目の優勝で終幕。国や民族の誇りを懸けて奮闘する選手の姿に、世界中のファンが心を熱くした。
グループステージで目を引いたのが、アジア・アフリカ勢の躍進。ドイツ、スペインの2強国を撃破した日本はもとより、アルゼンチンに一泡吹かせたサウジアラビア、ベルギーに完勝したモロッコ、ベストメンバーではなかったもののブラジルを下したカメルーン、終了間際の逆転劇でポルトガルを啞然とさせた韓国と、第三勢力の活躍が大会を盛り上げた。
そしてアフリカ勢の決勝ステージ進出はモロッコ1チームにとどまったが、アジア勢では日本、韓国、オーストラリアと過去最多となる3チームがグループ突破を果している。
一方、開催国のカタールはグループリーグ敗退。ホストチームが決勝トーナメントに進めなかったのは10年W杯の南アフリカ代表以来2度目だが、この時は1勝1敗1分けともう一歩の成績。3戦全敗での敗退は屈辱の結果となった。
彼らの躍進の理由としては、ヨーロッパで活躍する選手の数が増えて「個の力」が向上したこと、欧州シーズン途中の冬期開催で有力国に充分な準備期間が無かったことなどが指摘されている。
またVAR判定やオフサイド判定技術など、レフェリーを補佐する新テクノロジーの導入で、強者へ偏りがちのジャッジが是正されたことも要因として考えられる。前半3回のオフサイド判定でアルゼンチンの得点が取り消され、後半サウジアラビアが逆転した試合が顕著な例だろう。
加えて今大会は、試合が止まった時間も正確に測ることになり、アディショナルタイムがこれまでより長く取られた。また女性審判団が男子W杯で初めて起用されるなど、時代に合わせたエポックメイキングな大会だった。
決勝ステージで台風の目となったのは、ハードワークによる堅守速攻で快進撃を続けたモロッコ。トーナメント1回戦では延長PK戦の末、スペインを完封で退けると、準々決勝でポルトガルを1-0と撃破。FWエン=ネシリの打点の高い一撃は、衝撃的な決勝弾となった。
準決勝では前回王者のフランスに敗れて快進撃は止まるが、3位決定戦では試合巧者のクロアチアと互角の戦い。負けたもののアフリカ勢初のベスト4入りを果し、W杯の歴史に名を残した。
W杯決勝はファイナル史上希に見る激戦が繰り広げられ、PK戦を制したアルゼンチンが36年ぶり3回目の戴冠。初戦で黒星を喫したチームが優勝するのは、10年南アフリカ大会のスペイン(スイスに0-1と敗戦)に続いて2度目である。
大会MVP(ゴールデンボール)には、アルゼンチンを優勝に導いたリオネル・メッシが2度目の受賞。シルバーボールにはフランスのキリアン・エムバペ、ブロンズボールにはクロアチアのルカ・モドリッチが選ばれた。
メッシは5回のW杯で26試合に出場。ドイツ代表・ローター・マテウスがこれまで持っていたW杯出場最多記録を更新している。
大会得点王(ゴールデンブーツ)は決勝戦でハットトリックを記録したエムバペが獲得。エムバペはW杯通算得点を12まで伸ばし、58年大会で得点王となったジュスト・フォンティーヌのフランス記録にあと1と迫った。W杯の最多得点記録はミロスラフ・クローゼ(ドイツ)の16。エムバペは24歳と(12月20日が誕生日)まだ若く、今後大きな怪我さえなければ、新記録達成は間違いないところだろう。
失意のまま大会を終えたドイツのトーマス・ミュラー、ベルギーのエデン・アザールらはすでに代表からの引退を表明。またメッシ、モドリッチ、クリスティアーノ・ロナウド、ルイス・スアレス、ロベルト・レバンドフスキーらの大物も、年齢を考えればこれが最後のW杯になる可能性が高く、一時代の区切りとなった大会だと言えるだろう。
悲願のベスト8進出はならなかったものの、2大強国撃破で大会に旋風を起こした日本代表。今回で得た自信は間違いなく貴重な経験値としてチームの財産となるだろうが、次大会でも好結果を残せるとは限らないのがW杯の厳しさだ。
中田英寿や中村俊輔のほか、「黄金世代」がピークを迎えた06年ドイツ大会は1分け2敗と惨敗。ビッグクラブでプレーする選手を擁し、「俺たちのサッカー」で挑んだ14年ブラジル大会も2敗1分の期待を裏切る成績。期待された時ほど足をすくわれてしまうのが、これまでの日本代表だった。
大事なのは慢心せずに大会へ臨み、挑戦者として全力で戦う姿勢。今大会でまたひとつステージを上げたサムライたちには、大いに期待したいところだ。
26年大会はアメリカ、カナダ、メキシコの3ヶ国共同開催。参加国は48チームに拡大され、アジア枠は8.5、アフリカ枠は9.5へと増加。日本にとってW杯出場は容易なミッションとなった。
だが「48ヶ国は多すぎる」とレベル低下を懸念する声もあり、大会の大規模化も開催地選定に影響するなど問題視されるところだ。
当初は1次リーグを3チーム16組に分け、各組2位までが決勝トーナメントに進む形式が考えられていたが、インファンティノFIFA会長は「今大会の白熱したグループリーグを見て、やはり4チームずつの方が良いか再検討する余地がある」とコメント。大会方式はまだ流動的である。
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