10日放送のBS1『スポーツ × ヒューマン』は、【 ”あの場所で” もう一度咲き誇れ ~ なでしこジャパン・熊谷紗希】 今月開催のFIFA女子W杯に向け、世界で勝つためのチームづくりに取り組む代表キャプテンの姿に迫る内容。
現在ドイツの名門バイエルン・ミュンヘンで、守備の要であるセンターバックとして活躍する熊谷選手。彼女が海外挑戦を決めたのは12年前。以降ヨーロッパの強豪クラブを渡り歩き、2020年UEFAチャンピオンズリーグ決勝では、自らゴールを決めての優勝を経験している。
身体能力に勝る欧州選手に互して戦う熊谷の武器は、相手の意図を予測して準備する「先を読んでやらせない」プレー。これがもがいた中でつかみ取った、熊谷の真骨頂だ。
今月20日に開幕するFIFA女子ワールドカップ・オーストラリア/ニュージランド大会。日本はスペインなど強豪相手の試合を控え、厳しい戦いが予想されている。
2011年W杯優勝組の大半が代表を退いて以来、世界の舞台での低迷が続くなでしこジャパン。かつて世界を席巻した日本のパスサッカーは、パワーオンリーから脱却して飛躍的にレベルが向上した海外チームの中で埋没していた。
今大会のメンバーは、大きな国際舞台での経験が少ない若い世代が中心。現在32歳の最年長であるキャプテンの熊谷は、11年W杯優勝を経験した唯一の生き残りだ。
その11年W杯で戦ったアメリカとの決勝では、優勝を決めるPK戦で当時20歳の熊谷が4人目に登場。「なんで自分なんだろう」と極度の緊張ですくむ熊谷を、永里優季や宮間あやらの先輩たちが「こんな機会は一生ないよ。楽しまなきゃ損だよね」と激励する。
これで重圧から解き放たれた熊谷は、思いっきりボールをネットに突き刺し優勝を決定。この時の経験が熊谷の目指す、「この人についてゆきたい存在」というキャプテン像に大きな影響を与えた。
W杯を8ヶ月後に控えた昨年11月の強化試合は、FIFAランキング4位のイングランドが相手。攻撃力の強化を目指して3バックの布陣を試す日本だが、手薄になった守備陣のスペースを使われ4失点。強豪に0-4の完敗を喫してしまう。
熊谷がオフサイドを狙った場面では、3バックを組む南萌華との意図が合わず、ラインを揃えられずに2点目を献上。意思の疎通が出来ていないという課題が浮き彫りとなる。
その反省を踏まえてチームのコミュニケーションを見直した熊谷は、若い選手たちと積極的な意見交換。ピッチの内外を問わず意思疎通を図った。こうしてなでしこのキャプテンは「いい意味でぶつかり合えるチームにしたい」と、迷いなく戦える方向性を目指す。
彼女のそのキャプテンシーが培われたのが、高校女子サッカーの名門である常磐木学園時代。上下関係を取り払ったチームで、リーダーとして個々の力を最大限に引き出し全国優勝を達成。雑草のようなたくましさで花を咲かせた。
今年2月にアメリカで行なわれた国際親善大会のシービリーブスカップ。ブラジルとアメリカに連敗したあとの最終戦で、東京五輪金メダルの強豪カナダと対戦。圧倒的なパワーとスピードで主導権を握られる日本だが、全員の意思を合わせてオフサイドに成功。そのあとの危険な場面も、三宅史織の的確な守備と熊谷の先読みプレーで得点を許さない。
3バックの安定により、人数をかけた攻撃陣も活性化。前半26分に清家貴子の先制点が生まれると、41分には遠藤純がPエリアで倒されPKを獲得。これを長谷川唯が沈めてリードを広げる。後半77分には宮澤ひなたのパスから遠藤がダメ押し点。なでしこが3-0と久々の快勝を収めた。
番組では確実に成長しているように見えたなでしこだが、実はこれが前年の欧州遠征から5試合ぶりの得点という、深刻な決定力不足を露呈。対戦相手のカナダがストライキ騒動で精彩を欠いていたことを考えれば、決して手放しで喜べない結果である。
W杯本番まで残り3ヶ月となった4月には、最後の欧州遠征でFIFAランキング13位のデンマークと対戦。前半は相手のパワーと高さに苦しめられるも、それぞれの立ち位置を修正した後半に立て直し。ボールの繋がりが良くなり、ゲームの流れを引き寄せる。
しかし相変わらずの決定力不足で好機を逃し、終盤の78分には裏を狙ったロングボールに競り合った南が頭でバックパス。前へ飛び出したGK山下杏也加との連携が合わず、痛恨のオウンゴールとなってしまった。日本はデンマークの堅守を崩せないまま0-1の敗戦。攻守ともに課題を残し、チームの完成度に物足りなさを感じる試合となった。
それでも前だけ向いて、若手と意見をぶつけ合う熊谷選手。W杯優勝という「“あの喜びの景色” を見たい、この感動をもう一回 味わいたい。それが最大のモチベーション」と語る。
懸念されていた女子W杯のTV中継は、NHKが放映権を獲得。BS1での放送が中心だが、1次リーグ3戦目のスペイン戦は地上波で観られるとのこと。今のところ世界のトップクラスとの差は大きいが、なでしこたちのベストを尽くした戦いに期待したい。
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