アンリ=ジョルジュ・クルーゾー「恐怖の報酬」

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パニック・アクションの先駆け

52年製作のフランス映画『恐怖の報酬』は、中南米に流れてきた男たちが危険なニトログリセリンを運ぶ恐怖と緊張の道行きを、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督が人間ドラマを交えて描いたサスペンス映画の傑作。

ニトログリセンを積んだトラックが、断崖のカーブや重油の泥沼を切り抜けるシーンはもちろん、前半部の中南米石油基地労働者たちのどん底の生活描写など、クルーゾー監督の徹底したリアリズムが生み出した重厚な画面が印象的だ。

山の中の悪路を走るトラックがいつ爆発するかというスリルと恐怖は圧倒的で、このハラハラドキドキの設定は、『新幹線大爆破』(75年、佐藤純弥監督)や『スピード』(94年、ヤン・デ・ボン監督)といった乗り物系のパニック / アクション作品にも繋がっていく。

53年のカンヌ国際映画祭でグランプリと男優賞を獲得、同年の第3回ベルリン国際映画祭でも金獅子賞に輝いている。カンヌの男優賞を受賞したイヴ・モンタンは、映画『夜の門』(46年)で歌った『枯葉』で有名なシャンソン歌手でもある。

命がけの道行き

舞台は中央アメリカのラス・ビエドラスという町。ここには食いつめた男たちが流れ着いて、その日暮らしの稼ぎを求めて集まっていた。ある日、町から500キロ離れた山の上の油田で大火災が起きる。鎮火のためにはニトログリセリンが必要になり、それを運ぶための決死隊が高額の報酬で集められた。

ニトロを運ぶトラック運転手の前で、石油会社の男がそのどす黒い液体をほんの一滴たらしてみせると、真下の岩は木っ端みじんになってしまう。たったこれだけの布石で後半の1時間半、見守る観客を恐怖に陥れることになる。

マリオ(イヴ・モンタン)を始めとする4人の男たちが、2チームに分かれて火災の現場に向かうが、先行する一台が運転を誤り爆発。2人が犠牲となってしまった。それでもマリオは怖じ気づく相棒を叱咤し、山頂で燃えさかる油田を目指す。

クルーゾーのサスペンス手腕

クルーゾーの演出は冴え渡り、今にも朽ち落ちそうな「スポンジの橋」からの脱出や、道を塞ぐ大岩の除去作業、油まみれの走路突破といった見せ場はもちろん、それらを繋ぐ場面にも細かく神経が行き届いている。だから上から石が転がってくるだけで、観客は思わず身構えてしまうのだ。

まさに息づまるシーンの連続だが、この映画の凄みはスリルやサスペンスだけではなく、人生の落伍者というべき男たちの人間像を鮮烈に描ききり、奥行きと重厚さのあるドラマを作り上げたところにあると言える。

この作品でクルーゾー監督は名声を高め、翌53年には犯罪サスペンスの傑作『悪魔のような女』を発表。一時はアルフレッド・ヒッチコック監督に並ぶ、スリラー・サスペンスの大家と呼ばれた。

『恐怖の報酬』は77年に、ウィリアム・フリードキン監督によってアメリカ映画としてリメイクされている。新たな設定も加えられ、迫力と緊張感がより増した作品となったが、人間ドラマとしては今ひとつという感じは否めない。

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