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キューブリックの「シャイニング」

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心理学と超自然現象を絡ませたストーリー

スタンリー・キューブリックの『シャイニング』が公開されたのが1980年。前作『バリー・リンドン』の評価が割れ興行的にも今ひとつだったため、キューブリックが挽回を図るべく取り組んだ作品である。

冬山のホテルを舞台に閉ざされた場所で起こる超自然現象を、キューブリックが独自の映像とセンスで描いている。精神に異常をきたし、斧を持って妻子を追いかけ回すジャック・ニコルソンの演技が話題となった。

原作は、モダンホラーの第一人者スティーヴン・キングが1977年に出版した同名の小説。次回作の素材を探していたキューブリックは出版前の草稿を読み、心理学と超自然現象を絡ませたストーリーが気に入って映画化を決めたようだ。普段はロジカルなものに拘るキューブリックだが、それだけでは説明できない超自然現象にも深い関心があったらしい。

映画が公開されると、1200万ドルの制作費に対し約9500万ドルの配給収入を上げるヒットとなった。ただ純粋にホラーとして見ると微妙で、評論家の評価も別れている。

特にスティーブ・キングは原作のテイストを大幅に変えたこの作品を批判し「エンジンのないキャデラック」と断じている。つまり見てくれは豪華だが、ホラーになっていないということだろう。

原作改変への評価

原作では小説家志望のジャック・トランスがホテルを支配する霊に取り込まれ、狂気を帯びていくという心理的な恐怖が描かれる。だがキューブリックの映画はジャックが追い込まれていく過程を削いでおり、心理ホラーの要素は少ない。

しかも原作を大きく変更したことで、肝となる超常能力 “シャイニング” の意味合いも薄れている。このあたりをキングは批判しているのだろう。

だが小説と映画では、持ち味となる表現方法はおのずと違ってくる。より映画的なものを目指して、キューブリックは原作を大きく替えたと思える。

そのためキューブリックは恐怖を映画的にイメージとして、随所に差し込んでいる。例えば現世と霊界を繋ぐ鏡や不気味な幾何学模様、息子ダニーの前に現われる双子やロビーに響くタイプライターの音などである。

それと映画の最初ではジャックが見る霊現象を、心象的風景の様に描いている。だが後半に現われる幽霊グレディの言動によって、これらは超自然現象だと分かる。これは観客に不安を与える為のミスディレクションだ。そして原作では活躍する “シャイニング” の持ち主ハロルドもあっさり殺され、観客の予想は裏切られてしまうのだ。

つまり彼は心理面のアプローチからホラーを描かず、こうした映画のカラクリで恐怖を生み出そうとしたのである。人間描写に興味のないキューブリックの、手法に重きを置いた演出だと言える。

ホラーには向かないキューブリック演出

だがこの映画はホラーとして優れているかと言えば、そうでもない。キューブリックの色が濃く出過ぎて、意識が恐怖の方に向かないのだ。ホラーと思ってこの映画を見た観客も、さも意味ありげなショットと鮮やかすぎる色彩に戸惑うだけだっただろう。

それに、いかにもやらかしそうなジャック・ニコルソンと、絶叫顔シェリー・デュヴァルの組み合わせはまるでマンガだ。斧を振り回すジャックとヒステリックに叫ぶシェリーの図は、ホラーというよりもはやギャグに近い。

実際、最後にジャックが目を見開いて凍結死しているシーンでは、劇場で笑い声が起こったという話もある。つまりキューブリックの演出にはリアルな怖さがなく、ホラーとしては失敗だったと言える。

だがホラーとして成り立っていなくても、あの映像美学と独特のセンスはキューブリックの映画として充分堪能出来る。それにステディカムをフル活用した有名な追っかけこの場面は、映像的ダイナミズムに溢れた出色のシーンで見逃せない。ジャック・ニコルソンの怪演とキューブリックの映像美、それだけで映画史に残る快作となっている。

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