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「お熱いのがお好き」モンローとワイルダー

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ビリー・ワイルダーとマリリン・モンロー

もともとビリー・ワイルダー監督は45年の『失われた週末』や50年の『サンセット大通り』といったシリアス劇で評価され、アカデミー賞も獲得していた。だが舞台劇を映画化した53年の『第十七捕虜収容所』あたりから作品はコメディ色を強めている。

もっともワイルダーはラブ・コメディの名手、エンルスト・ルビッチの弟子であり、喜劇的資質は初めから備えていたのだ。

オードリー・ヘプバーン主演の『麗しのサブリナ』のあと、55年に撮ったのが『七年目の浮気』で、主演は当時人気絶頂期のマリリン・モンローと、ブロードウェイの舞台で浮気願望の男の役を演じていたトム・イーウェル。

この映画は男の妄想をコメディタッチで描いており、モンロー演じる女性が可愛くてセクシーだが、主体性はなくラブドールのような存在だ。地下鉄からの風でスカートをなびかせるシーンが有名で、これは大観衆の前でロケ撮影が行なわれている。だがこの撮影を見学していた夫のジョー・ディマジオは激怒、大喧嘩ののち二人は離婚している。

モンローはこの離婚もあってか、精神的に不安定となりたびたび撮影に遅刻、セリフも覚えてこなかったので監督を悩ましたようだ。

ハイセンス・コメディ 『お熱いのがお好き』

59年、ワイルダーは再びモンローを起用し『お熱いのがお好き』を撮っている。共演はトニー・カーティスとジャック・レモン、脚本は『昼下がりの情事』からコンビを組んでいるI・A・L・ダイアモンド。モンローはこの作品で、少しおつむが弱いがピュアで魅力的な女性を演じている。

物語は楽器奏者の男二人が、ギャングから逃れるため女性に扮することから始まるドタバタ・コメディだ。当時規制の厳しかったハリウッド映画で、男が女装する物語など前代未聞だった。ワイルダーは少しでも女装や化粧の刺激を弱めるため、敢えてモノクロで映画を撮ったと言われる。

女装したジョー / ジョセフィン(トニー・カーティス)とジェリー / ダフネ(ジャック・レモン)は、女性楽団に潜り込んで列車でフロリダに向かう。この列車で歌い手のシュガー(マリリン・モンロー)と出会うことになるが、男二人が女の園に違和感なく入り込むというシチュエーションが既に可笑しい。

軽妙なレモン、抜け目のないカーティス、可愛いモンロー。三人の個性が上手に絡み合い話は進む。ジョーは姑息な策を弄しシュガーの気を引こうとするが、簡単に騙されてしまうシュガーがなんとも微笑ましい。ちなみにこの映画の中でモンローは『I Wanna Be Loved by You』を披露し、彼女を象徴する歌として知られるようになる。

一方、ダフネも老富豪オズグッド3世からデートを申し込まれ、何故かその気になっているのが可笑しい。まさにこの時のレモンの演技は洒脱で軽快だ。

最初熱意なくタンゴの相手をしていたダフネだが、次第にノリノリに身体を動かし始める。次にオズグッドとダンスしながら口で花を受け渡し、挙げ句の果てに陶酔しながらその場を独占するように踊る、というくだりは最高である。

下手をすれば馬鹿馬鹿しいだけの話になりそうだが、ワイルダーの計算された演出と巧みな脚本でハイセンスなコメディが繰り広げられている。

最後はモーターボートを飛ばし、ギャングから逃れたジョーとシュガーはハッピーエンドとなる。一方ダフネはオズグッドにプロポーズされ、色々理由をつけて断ろうとするが、彼は諦めてくれない。

たまりかねたダフネことジェリーはついにカツラを脱ぎ捨て「俺は男だ」と白状する。だがオズグッドは「完全な奴はいない」と気にも掛けない。まさに当時としては、斜め上を行くようなオチである。

モンローの死

『お熱いのがお好き』は恐らくマリリン・モンローが一番魅力を発揮した作品だ。しかしモンローは相変わらず遅刻を繰り返し、カメラが回っても芝居が出来ないことさえあった。モンローのせいで撮影は難航し、ワイルダーとモンローの仲は険悪になる。

それでもモンローの素晴らしさを認めていたワイルダーは、準備中の新作『あなただけ今晩は』で彼女を起用する予定だった。しかし62年8月、モンローが自宅の寝室で亡くなっているのをメイドが発見する。死因は薬の大量服用による中毒だったが、それ以上のことは謎のままに終わっている。享年36歳だった。

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