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ギレルモ・デル・トロ「シェイプ・オブ・ウォーター」

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ギレルモ・デル・トロの寓話

2017年の『シェイプ・オブ・ウォーター』は、メキシコの映画監督ギレルモ・デル・トロが、半漁人と言葉を喋れない女性との純愛を描くディープで切ないファンタジーである。もっとも半漁人をモチーフとしたこの水棲生物は凶暴な怪物ではなく、アマゾンで神と崇められる誇り高い生き物だ。

デル・トロのクラシカルに表現された映像美と造形、そして純粋な物語と寓話性は高く評価され、この映画は18年の第90回アカデミー賞で作品賞・監督賞ほか4部門に輝いている。特にテーマとなる水の描写は素晴らしい。水の持つ神秘や広がり・生命力が全編に渡って瑞々しく写し出されている。

アマゾンの不思議な水棲生物を演じるのが、デル・トロ作品の常連ダグ・ジョーンズ。言葉を喋れない清掃員女性を、『ブルージャスミン』のサリー・ホーキンスが演じている。

大人の純愛ファンタジー

この作品は異形への愛情を描いたファンタジーで、中心となるのは不思議な生物と孤独な中年女性だ。しかも彼らの間で言葉を交されることもない。

だからこそ、王道のストーリーでは生み出せない純な愛の形が語られる。デル・トロの物語は抑圧される者・差別される者の幻想から生み出されており、現実の苦みや哀しみを含んだファンタジーなのだ。

この映画の中には、痛みを伴う暴力表現やヒロインの自慰行為というあからさまな性描写も登場する。痛みへの誘惑も性衝動も生きていることの証しであり、自分をコントロール出来ない人間の本質でもある。デル・トロはこれらを描くことで、おとぎ話に終わらない大人のファンタジーを作り出しているのだ。

オタク界の巨匠 デル・トロ

デル・トロは少年時代いじめを受けており、その逃げ場をファンタジーという夢想空間に求めていた。その対象が中世から19世紀にかけてのヨーロッパ世界であり、アメリカのコミックヒーローであり、日本のアニメや特撮ものだった。造形への関心から特殊メイクに興味を持ったデル・トロは、そこから映画の世界に入りオタク監督となる。

その特殊メイク技術を生かした長編デビュー作が、ヴァンパイア・ホラー『クロノス』だ。この映画にはすでデル・トロの見世物小屋的な劇場世界が展開され、神秘と欲望に取り憑かれる人間が描写される。イラスト画も達者なデル・トロは、レトロな機械仕掛けの吸血装置 “クロノス” を自らデザインしている。

それにしても、この“クロノス”が鋭い切っ先で人間の皮膚を突き刺すシーンには痛みを感じてしまう。デル・トロの映画は身体を傷つける描写がたびたび登場するが、真に迫った肌感覚で本当に痛そうだ。脳の中で痛みを感じる部分と快さを感じる部分は隣り合ってるらしいが、デル・トロにはその境目がなく痛みを快さと感じるのだろう。

ハリウッドに呼ばれ撮った『ミミック』は制約もあり満足出来る作品にならなかったが、『ブレイド2』の成功によりデル・トロは注目される監督となる。そして自ら原作者に交渉し製作したアメコミ作品『ヘルボーイ』シリーズでは独自の物語世界を作り出している。

デル・トロ作品のモチーフ

いじめ体験と夢想への逃避は『デビルズ・バックボーン』や『パンズ・ラビリンス』といった映画に反映される。代表作『パンズ・ラビリンス』はスペイン内戦を時代背景に、ある少女の哀しい空想世界を現実と絡めて描くダークファンタジーだ。

この少女にはデル・トロの少年時代が色濃く投影されていて、中世ヨーロッパの暗黒をイメージした奇怪な造形や映像が魅惑的で妖しい。

デル・トロがオタク心を最大に発揮して作ったのが、日本のロボットアニメと怪獣特撮を掛け合わせて映画化した『パシフィック・リム』だ。この映画ではデル・トロ作品のモチーフとなる、混沌と秩序、闇と光、機械と人間、異次元空間と奇妙な生物といった描写がふんだんに描かれている。

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