007 リビング・デイライツ/消されたライセンス




『美しき獲物たち』でロジャー・ムーアが007シリーズを引退した後、4代目ジェームズ・ボンドとして選ばれたのが、ウェールズ出身のティモシー・ダルトンだ。ダルトンは20代の頃からボンド役候補として声をかけられていたが、ボンド役に相応しい40歳の年齢になったタイミングでムーアの後を引き継ぐ事になった。

そして87年に『リビング・デイライツ』が製作されるが、舞台などの演技経験が豊富なダルトンはボンドの内面をクールに表現する。プレタイトルから繰り広げられる、スタントなしの激しいアクションはスリリングで、機敏に身体を動かす新ボンドの精悍さは好意を持って迎えられた。

『リビング・デイライツ』では冷戦をテーマに掲げ、KGBの内紛や仕組まれた亡命というポリティカル・スリラーと、ソ連侵攻で紛争地帯となったアフガンを舞台としたゲリラとの共闘、といったアクションが入り交じった作品となっている。



ダルトンのライフル扱いは堂に入っており、彼のボンドが筋金入りのプロフェッショナルに見える。反面、彫りの深い顔つきには色気を感じるものの、ラブシーンを演じるには少し硬い印象だ。そのためか、本作は冒頭にセクシー美女が現われるだけで、後はほとんどヒロインのチェロ奏者・カーラと危機を乗り越える硬派のストーリである。

この作品には、久々にガジェット満載のボンドカーが登場する。ボンドが氷上で走らせるアストンマーティンV8は、両サイドのアンダーパネルからソリが出現したり、ワンタッチでスパイクタイヤに変身するなど寒冷地対策がバッチリだ。おまけに小型ミサイルやレーザー光線などの隠し兵器も大活躍、自爆装置で秘密保持にも抜かりがない。

そして最後は輸送貨物機後方の、揺れるネットにぶら下がっての空中スタントという、まさに命がけのアクションが展開する。このアクションを担当したのは降下パラシュートの専門家らしいが、それでも手に汗を握る危険なスタントだ。

『リビング・デイライツ』は概ね好評で興行的にもヒット、ハードなアクションと演技力を兼ね備えたダルトン・ボンドも評価された。

80年代後半、ソ連の指導者ゴルバチョフのペレストロイカ政策により東西緊張の緩和が進められていた。89年公開の『消されたライセンス』はそうした時代の雰囲気を受け、これまで背景にしてきた東西冷戦から離れた内容になった。

登場人物はフレミングの短編『珍魚ヒルデブラント』からキャラクターを拝借しているが、タイトルは映画製作側のオリジナル。すでにシリーズ16作目となると、フレミングの原作には映画に相応しい題名が残っていなかった。

この頃『ダイ・ハード』や『リーサル・ウエポン』といった派手なアクション映画がヒットしており、007シリーズもその影響を受ける。『消されたライセンス』では親友が瀕死の目に遭わされ、復讐心に燃えるボンドがダブル・オー課を離脱、殺しの許可証を剥奪されるも個人で麻薬王に挑む物語になった。

クライマックスのタンクローリーによるチェイス・アクションは、迫力満点で007シリーズらしい創意工夫に溢れるものだ。だが、任務と国家への忠誠心抜きで私的に行動するジェームズ・ボンドには、違和感を禁じ得ない。またバイオレンス描写もいつもより強めで、従来のような洗練さに欠ける作品となった。

こうしてただのアクション映画となってしまった『消されたライセンス』は、同時期に公開された『バットマン』の半分にも満たない興行収入に終わり、作品的評価も低い作品となってしまった。

このあと007の版権を管理していたブロッコリの会社と、配給を担当してきたMGMとの間で、ビデオ化権とテレビ放映権を巡る法的な争いが勃発、ボンド映画の製作に6年間の空白が生じる。そのため、3作目の出演を予定していたティモシー・ダルトンは待ちきれなくなり、ボンド役を降板することになる。

その他にも、監督のジョン・グレン、脚本のリチャード・メイバウム、タイトルデザインのモーリス・ビンダー、撮影のアレック・マイルズなど、長年ボンド映画を支えてきたスタッフたちにも『消されたライセンス』がシリーズ最後の仕事となった。

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